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コラム

収益物件を生前贈与されたら相続でどう扱われるか
——負担付贈与と特別受益の実務【弁護士解説】

「アパートをあげるから、その代わりに建築ローンも引き継いでほしい」——こうした生前贈与は、相続が発生したときに複雑な問題を引き起こすことがあります。特に、その後に賃料収入でローンを返済した場合、「本当に負担を負ったのか」が争われるケースがあります。東京高等裁判所令和5年12月7日決定は、こうした場面での法的評価と計算方法について、実務的に参考となる判断を示しました。
📋 この記事のポイント
  • 収益物件の贈与に際してローンの引受けを条件とした場合、「家賃収入で返せたから実質負担なし」とはいえず、負担付贈与と評価される
  • 負担付贈与では不動産全額ではなく、「ローン分を差し引いた純粋な贈与部分」だけが特別受益として持ち戻される
  • 賃料収入を原資にローンを返済しても、それだけでは寄与分は認められない
  • 不動産価格が変動している場合でも対応できる実務的な計算方法が示された

1. 負担付贈与とは何か

贈与には、ただ財産をあげるだけの「単純贈与」と、受け取る側が何らかの義務を負う「負担付贈与(ふたんつきぞうよ)」があります。

負担付贈与の典型例が、「アパートをあげる代わりに、その建築ローンも引き継いでほしい」というパターンです。受贈者(もらう側)は不動産を取得できる一方で、残っているローンを自分で返済しなければなりません。

民法第553条(負担付贈与)
「負担付贈与については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定を準用する。」

「双務契約に関する規定を準用する」とは、売買契約などと同様に、お互いに義務を負い合う関係として扱うということです。単純な「もらいっぱなし」ではなく、負担を負っている点が考慮されます。

2. 特別受益とは何か

「特別受益(とくべつじゅえき)」とは、相続人が被相続人から生前に受けた贈与や遺贈のことです。

相続人の中に、生前に多くの財産をもらっていた人がいると、遺産分割のときに他の相続人との間に不公平が生じます。そこで民法は、生前にもらった財産を相続財産に加算し直して(「持ち戻し」といいます)、公平に分け直す仕組みを用意しています(民法第903条第1項)。

民法第903条第1項(特別受益者の相続分)
「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」

問題は、負担付贈与の場合に「いくらを特別受益として計算するか」です。不動産をそのまま全額計上すれば受贈者に不利になりますし、ローン分を無視すれば他の相続人に不公平です。この計算方法が争われたのが、今回紹介する事案です。

3. 事案の概要

被相続人である父が亡くなり、長男・次男・長女の3人が相続人となりました。次男が遺産分割の審判を申し立てたことが発端です。

問題となったのは、父が生前に長男に行った贈与の評価でした。父は長男に対し、収益を生む共同住宅(以下「アパート」)とその敷地を贈与していました。このとき、アパート建築のために金融機関から借り入れた約2,600万円のローンを、長男が免責的に引き受けることが条件でした。

長男はその後、アパートから得られる賃料収入を原資として、約4,045万円(利息込み)を支払い、借入金を完済しています。

🏢 整理すると:父がアパートを長男に贈与 → 長男がローンを引き受け → 長男が賃料収入でローンを全額返済 → 父が死亡、遺産分割へ

4. 争点①——「実質負担なし」として単純贈与か?

原審(一審)の判断

原審(家庭裁判所)は、長男の負担について「実質的には負担がない」と判断しました。なぜなら、ローンの返済原資はアパートの賃料収入であり、その管理は被相続人(父)のもとで行われていたという事情があったからです。

その結果、原審はこの贈与を単純贈与と評価し(負担付贈与とは認めず)、アパートの相続開始時の評価額3,335万円の全額を長男の特別受益として持ち戻すと判断しました。

原審の判断——負担付贈与とは認めず、単純贈与として評価

判断の根拠

ローンの返済はアパートの賃料収入から行われており、被相続人の管理下にあった。したがって長男に実質的な経済的負担はなかったと評価した。

持ち戻し額

アパートの相続開始時評価額 3,335万円の全額を特別受益として計上。

東京高裁の判断

これに対し、東京高等裁判所(令和5年12月7日決定)は原審の評価を覆し、負担付贈与であると認定しました。

東京高裁は、贈与後に発生した賃料収入はアパートという贈与の目的物そのものではなく、贈与を受けた後に長男が得た収益であると考えました。贈与後の賃料は長男に帰属するものであり、その収益でローンを返済したことは、長男自身の計算において行われたと評価したのです。

また、長男はローンを引き受けた時点でそのリスクを負っており、万が一賃料収入が不足すれば自己資金で返済しなければならない立場にありました。こうした経済的リスクを負っていた以上、実質的に負担がなかったとはいえないという判断です。

東京高裁の判断——負担付贈与と評価

判断の概要

贈与後に発生した賃料収入は長男に帰属する財産。その収益でローンを返済したことは、長男自身の計算において行われた行為であり、実質負担なしとはいえない。長男はローン返済リスクを引き受けていた。

結論

本件贈与は負担付贈与であり、単純贈与と評価することはできない。

5. 争点②——負担付贈与ではいくら持ち戻すか

負担付贈与と認定されると、次の問題は「特別受益としていくらを持ち戻すか」です。

単純贈与であれば「不動産全額」が特別受益になります。しかし負担付贈与の場合、受贈者はローンという負担を引き受けた対価として不動産を取得しています。公平に考えれば、「純粋にもらった部分」だけを特別受益として持ち戻すべきです。

ただし、贈与時と相続開始時で不動産の価額が変わっている場合にどう計算するかが問題になります。昨今の東京都内では不動産価格が大きく変動することも珍しくなく、この計算方法は実務上の重要性を持ちます。

高裁はこの点について、以下の計算方法を示しました。

📐 高裁が示した計算方法
Step 1 贈与時の不動産価額(4,005万円)から引受債務の残元金(2,481万円)を差し引き、「純粋な贈与部分」の割合を算出
計算 (4,005万円 − 2,481万円)÷ 4,005万円 ≈ 38%(これが純粋な贈与部分の割合)
Step 2 相続開始時の不動産価額(3,335万円)に、その割合を掛ける
計算 3,335万円 × 38% ≈ 1,267万円
✅ 特別受益額:約1,267万円(原審の3,335万円から大幅に縮小)

この方法の意味を平易にいえば、「贈与時点で、不動産のうち何割が純粋に『もらった部分』だったかを割り出し、その割合を相続開始時の価額に当てはめる」というものです。不動産の価格変動をそのまま受贈者に帰属させつつ、負担を差し引いた公平な評価が可能になります。

評価方法 持ち戻し額 考え方
原審:単純贈与として 3,335万円(全額) 不動産全体を贈与とみなして全額持ち戻し
高裁:負担付贈与として 約1,267万円 「純粋な贈与部分」の割合だけを持ち戻し

6. 寄与分とは何か——争点③

長男はさらに、「被相続人(父)の財産の維持・増加に特別に貢献したのだから、寄与分を認めてほしい」とも主張しました。

「寄与分(きよぶん)」とは、被相続人の財産形成や維持に特別に貢献した相続人が、その分だけ多く取得できる制度です(民法第904条の2)。

民法第904条の2第1項(寄与分)
「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」

長男の主張は「ローンを完済したことで父の財産が守られた」というものでしたが、高裁はこれを認めませんでした。

理由は、ローン返済の原資がアパートの賃料収入だったからです。アパートの収益は長男自身に帰属する財産であり、それを使って自分が引き受けた債務を返済したにすぎません。これは「被相続人(父)の財産を特別に増やした」行為とはいえず、寄与分の要件を満たさないと判断されました。

寄与分の申立て——却下

高裁の判断

ローンの返済原資はアパートの賃料収入(長男自身の財産)であり、これをもって「父の財産の維持・増加への特別な貢献」とは認められない。寄与分の要件を欠く。

7. この決定から読み取れること

加山
弁護士・加山綾一のコメント

贈与後に生まれた賃料は受贈者のものですし、返済できなければ自己資金を充てなければならないリスクを長男は負っていたわけですので、家賃収入でローンを返済したのだから長男に実質的な負担はないという原審の考え方には、やや違和感を持つ人も多いのではないでしょうか。高裁判決がこうした実態を評価した点は、妥当な判断といえると思います。

また、この事件が提示した純贈与部分の割合を算出し、相続開始時の評価額に当てはめるという計算式は参考になります。特に昨今、東京都内をはじめとした不動産価格が大きく動いている状況では、贈与時と相続開始時の評価額が大きく乖離することも珍しくありません。そうした場面で東京高裁がこの計算方法をとったという意義は大きいと思います。

ただし、今回は東京高等裁判所の事例的な判断であり、最高裁判所の統一的な解釈として確立されたものではありません。個々の事情(贈与時の合意内容・債務の性質・賃料の管理状況など)によって結論が異なる可能性があります。実際に同様の問題に直面した場合は、早めに弁護士に相談されることをお勧めします。

収益物件の相続・生前贈与について相談したい

不動産の生前贈与・相続の問題は、個々の事情によって評価が大きく変わります。
弁護士への早めのご相談をお勧めします。

参考文献・引用裁判例・関連条文

  • 東京高等裁判所 令和5年12月7日決定(遺産分割・寄与分審判に対する抗告審)
  • 民法第553条(負担付贈与)
  • 民法第903条(特別受益者の相続分)
  • 民法第904条の2(寄与分)
加山 綾一(弁護士)
東京弁護士会所属(登録番号39453)。lab-01.co代表。複数社の社外役員・顧問弁護士を務める傍ら、弁護士主導の相続サポートプラットフォームを運営。相続紛争・遺産分割の実務に携わる。
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