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コラム

弁護士が教える遺言書の書き方と例文—自筆証書遺言の4要件と落とし穴—【弁護士解説】

「遺言書を書きたいが、どう書けばいいかわからない」「書き方を間違えると無効になると聞いた」——そのような方のために、この記事では手書き(自筆証書)遺言の書き方と例文を弁護士が解説します。日付の書き方・押印の方法・財産目録のパソコン作成といった実務上の注意点まで、ひとつひとつ確認していきましょう。

▌ この記事のポイント
  • 自筆証書遺言は①全文を手書き②日付(年・月・日)③氏名の手書き④押印の4要件が必要(民法第968条第1項)
  • 「令和○年○月吉日」の日付は無効(最判昭和54年5月31日)。必ず具体的な日付を書く
  • 2019年改正で財産目録のみパソコン作成が可能になった(民法第968条第2項)
  • 印鑑は実印でなくてよい。拇印(指印)でも有効(最判平成元年2月16日)
  • 遺言書は法務局での保管制度を利用すると検認不要・紛失リスクが減る

遺言書の種類——自筆証書・公正証書・秘密証書

遺言書には法律上3種類の方式があります(民法第967条)。

  • 自筆証書遺言:全文を自分の手で書く。費用ゼロで一人で作れるが、方式を誤ると無効になる
  • 公正証書遺言:公証人が作成する。方式の不備が生じにくく信頼性が高いが、費用がかかる(財産額により数万〜十数万円程度)
  • 秘密証書遺言:遺言内容を秘密にしたまま公証人に存在を証明してもらう。実務ではほとんど使われない

このうち最もよく使われるのが自筆証書遺言と公正証書遺言です。費用をかけずに手軽に書けるのが自筆証書遺言の利点ですが、方式要件が厳格に定められており、一つでも不備があると遺言全体が無効になるリスクがあります。

自筆証書遺言の4つの法的要件(民法第968条第1項)

自筆証書遺言が有効であるためには、以下の4要件をすべて満たす必要があります。

民法第968条第1項(自筆証書遺言)
「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」

① 全文を自書すること

遺言書の本文は、すべて遺言者本人が自分の手で書かなければなりません(全文自書の原則)。パソコン・ワープロで印刷したものは遺言書として無効です。他の人に代わりに書いてもらうことも無効です(出典:久貴忠彦・泉久雄『新版注釈民法(28)』p.88〜107)。

使用する筆記具(ボールペン・万年筆・筆など)や用紙に制限はありません。外国語で書いても有効とされています(最高裁昭和49年12月24日判決)。複数の紙にわたっても契印・ホッチキス留めは法的要件ではありません(最高裁昭和36年6月22日判決)。

⚠️ 注意:他の人の手を借りて書いた場合(添え手)
手が震えるなどの理由で他の人に手を支えてもらいながら書く場合、①遺言者自身に自書能力があること、②他の人の関与が筆記を容易にする支えにとどまること、③他の人の意思が介入した形跡がないことの3要件を満たす場合は有効とされる場合があります(最高裁昭和62年10月8日判決)。

② 日付を自書すること

遺言書には年・月・日を正確に記載する必要があります。日の記載がなければ無効です(通説・判例)。

最高裁判所第一小法廷 昭和54年5月31日判決(民集33巻4号445頁)

事案の概要

「昭和四十年七月吉日」と記載された遺言書の有効性が争われた事案。

判断の概要

最高裁は、「吉日」という記載では特定の日を指示することができないとして、日付の記載を欠くものとして無効と判断しました。遺言書には年・月・日が特定できる形で記載することが必要です。

なお、日付の誤記(錯誤による誤記)については、真実の作成日が遺言書の記載その他から容易に判明する場合は有効と解されています(最判昭和52年11月21日)。ただし故意に異なる日付を書いた場合は無効です。

③ 氏名を自書すること

遺言者自身が氏名を自書します。通常は氏と名の両方を書きますが、戸籍上の氏名と完全に同一でなくても、遺言者本人が特定できれば有効です。通称・ペンネームによる署名も、本人の同一性が明らかであれば有効とされています(出典:久貴忠彦・泉久雄『新版注釈民法(28)』p.88〜107)。

④ 押印すること

遺言書に印を押します。実印である必要はなく、認印でも有効です。最高裁は拇印(親指の指紋による押印)でも遺言書の押印として有効と判断しています(最高裁平成元年2月16日判決)。

通常は署名の直後に押印しますが、封筒の封じ目への押印でも遺言書の押印として有効と認められた事例もあります(最高裁平成6年6月24日判決)。

財産目録はパソコン作成が可能——2019年改正のポイント

2019年(令和元年)の民法改正により、財産目録(不動産の登記情報・預貯金口座情報などを一覧にした別紙)に限ってパソコンで作成することが認められました(民法第968条第2項参照)。

財産目録をパソコンで作成する場合は、各ページに遺言者自身が署名し、押印することが必要です。通帳のコピーや不動産の登記事項証明書のコピーを添付する方法も可能です。

財産目録の活用場面:遺産に不動産・複数の銀行口座・有価証券などが含まれる場合、これらをすべて遺言本文に自書すると大変な分量になります。財産目録として別紙にまとめることで、本文は短くなり、手書きの負担を大幅に減らせます。

自筆証書遺言の例文

以下は標準的な自筆証書遺言の例文です。実際に作成する際は、財産の詳細(不動産の地番・銀行名・口座番号など)を正確に記載してください。

▌ 例文(標準型・配偶者と子が相続人の場合)
遺 言 書

遺言者 山田太郎は、次の通り遺言する。

第1条 遺言者が所有する次の不動産を、妻 山田花子(昭和○○年○月○日生)に相続させる。
 所在 東京都○○区○○町○丁目
 地番 ○○番○
 地目 宅地
 地積 ○○.○○平方メートル
 (家屋番号○○番○の建物を含む)

第2条 遺言者が有する○○銀行○○支店の普通預金(口座番号 ○○○○○○○)の残額は、長男 山田一郎(昭和○○年○月○日生)に相続させる。

第3条 その他の財産は、すべて長男 山田一郎に相続させる。

第4条 遺言執行者として妻 山田花子を指定する。


令和○○年○月○日 ← ② 日付(「吉日」はNG)
東京都○○区○○町○丁目○番○号
山田 太郎 ← ③ 氏名の自書
     ㊞ ← ④ 押印

※ 上記はあくまで例文です。実際の遺言書作成に際しては弁護士・司法書士等の専門家への相談を強くお勧めします。

よくある無効例——この書き方では遺言書が無効になる

書き方の例 有効・無効 理由
日付に「令和○年○月吉日」と記載 無効 日が特定できない(最判昭和54年5月31日)
本文をパソコンで印刷・プリントアウト 無効 全文自書の要件を満たさない
他の人に全文を代筆してもらった 無効 遺言者本人の手書きでなければならない
押印なし(氏名のみ) 原則無効 押印は必須の要件
財産目録だけをパソコンで作成・本文は手書き 有効(条件あり) 財産目録各ページへの署名・押印が必要(民法968条2項)
拇印(親指の指紋)で押印 有効 最判平成元年2月16日で有効と確定
「長男の誕生日」という日付記載 有効とされる場合あり 特定できれば有効とする学説・判例あり(要件次第)

遺言書の訂正・変更のルール

一度書いた遺言書を訂正・変更したい場合は、正式な手順が必要です。方式を守らないと変更前の記載に戻るか、最悪の場合は遺言書全体が無効になる可能性があります(民法第968条第3項参照)。

変更の方式要件は、①変更した場所を指示し、②変更した旨を付記して署名し、③変更した場所に押印することです。修正テープや二重線だけでは不十分です。

遺言書の内容を大幅に変えたい場合は、新たに遺言書を作成する方が確実です。後の日付の遺言書が優先されます(最判昭和55年11月27日)。

法務局への遺言書保管制度の活用

自筆証書遺言は自宅で保管することが多いですが、紛失・隠匿・改ざんのリスクがあります。2020年7月から施行された法務局における遺言書の保管等に関する法律により、法務局(遺言書保管所)で自筆証書遺言を保管してもらうことができます。

法務局保管の主なメリット:

  • 家庭裁判所での検認手続きが不要になる
  • 紛失・隠匿・改ざんのリスクがなくなる
  • 相続開始後、相続人が遺言書情報証明書を取得できる
弁護士コメント/加山綾一

自筆証書遺言は費用がかからない点で魅力的ですが、実際の相談では方式を誤った遺言書が後から問題になるケースを多く見ます。特に多いのは、日付の「吉日」問題、相続させる財産の特定が不十分(「預金はすべて長男に」だけでは後から争いになることがある)、複数の遺言書がある場合に新旧の関係が不明確、という3つです。どうしても自分で書くという場合でも、一度弁護士や司法書士に相談してから作成することをお勧めします。費用をかけたくない場合でも、法務局の保管制度を利用するだけでリスクを大きく減らせます。

よくある質問

Q:自筆証書遺言の日付に「令和○○年○月吉日」と書いても良いですか?
「吉日」は無効です。最高裁判所昭和54年5月31日判決(民集33巻4号445頁)は、日付の特定ができない「吉日」は要件を満たさないとしています。「令和○年○月○日」と具体的な日付を書いてください。
Q:遺言書はパソコンで作成できますか?
本文はパソコンで作成できず、すべて手書きが必要です(民法第968条第1項)。ただし、2019年の改正により、財産目録に限ってパソコン作成が認められました(民法第968条第2項)。財産目録を自書しない場合は各ページに署名押印が必要です。
Q:印鑑は実印でなければなりませんか?
実印である必要はありません。認印でも有効です。最高裁判所平成元年2月16日判決(民集43巻2号45頁)は、拇印でも遺言書の押印として有効と判断しました。ただし実務上は真正性を証明しやすくなるため、実印の使用を推奨しています。

参考文献・根拠条文

  • 久貴忠彦・泉久雄「自筆証書遺言」新版注釈民法(28)相続(3) 遺言・遺留分(有斐閣、2003年)p.88〜107
  • 最高裁判所第一小法廷 昭和49年12月24日判決(外国語遺言の有効性)
  • 最高裁判所第一小法廷 昭和54年5月31日判決(民集33巻4号445頁)吉日の無効
  • 最高裁判所第一小法廷 昭和62年10月8日判決(添え手の3要件)
  • 最高裁判所第一小法廷 平成元年2月16日判決(民集43巻2号45頁)拇印の有効性
  • 最高裁判所第一小法廷 平成6年6月24日判決(封筒封じ目への押印)
  • 民法第967条(遺言の方式)
  • 民法第968条第1項・第2項・第3項(自筆証書遺言)
  • 法務省「自筆証書遺言書保管制度について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html

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加山綾一 弁護士(東京弁護士会)
加山綾一(弁護士)
東京弁護士会所属(登録番号39453)。複数社の顧問、社外役員等を務める傍ら、弁護士主導の相続サポートプラットフォームを運営。相続紛争・遺産分割の実務に携わる。