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コラム

株を渡しても経営は渡さない—黄金株・種類株式による事業承継を弁護士が解説—【2026年版】

会社は後継者に継がせたい、だから自社株も早めに渡して相続財産を圧縮したい。でも、経営そのものはまだ任せきれない—中小企業の事業承継では、この時間差がしばしば問題になります。会社法の種類株式(黄金株・議決権制限株式など)や属人的定めを使うと、株式の財産的な価値は後継者に渡しながら、議決権(会社の意思決定)は当面手元に残すという設計ができます。本記事では、黄金株(拒否権付株式)を中心に、種類株式を事業承継に使うときの仕組み・設計のポイント・発行後の注意点を、弁護士が2026年8月時点の会社法に基づいて整理します。株式の集中が招く遺留分(お金)の問題は、兄弟記事(事業承継と遺留分)で扱います。
📋 この記事のポイント
  • 会社法の種類株式(会社法第108条)を使うと、議決権と財産的な価値を分けて承継できる。代表例が黄金株(拒否権付株式・会社法第108条第1項第8号)
  • 黄金株は1株でも、定めた事項に拒否権を持てる。株式の大半を後継者に渡した後も、先代が会社の重要な意思決定に歯止めを残せる(段階的な承継のつなぎ)。
  • 設計に際して意識してもよいのは、拒否権の対象事項を絞ること。あらゆる決議に及ぼすと後継者が何も決められない。発行には定款変更と登記が必要。
  • 発行後の注意点として、①先代の相続で非後継者に渡ると経営が動かなくなる恐れ、②将来のM&A・上場の妨げ、③登記で外部から見える、がある。相続時の手当ては、死亡を条件とする取得条項か遺言で対応できる。
  • 少数の株式で議決権の過半数を保つ属人的定め(会社法第109条第2項・非公開会社限定。実務では「属人的株式」とも呼ばれる)という選択肢もある。

1. 議決権と財産的価値を分ける種類株式

株式には、会社の意思決定に加わる議決権と、配当や残余財産を受け取る財産的な価値という、性質の異なる二つの側面があります。通常の株式(普通株式)はこの二つがセットになっていますが、会社法は、権利の内容が異なる種類株式を発行することを認めています(会社法第108条)。種類株式として内容を変えられる事項は、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権の制限、譲渡制限、取得請求権、取得条項、全部取得条項、拒否権、役員の選任・解任の9つです(同条第1項各号)。

事業承継で使われることが多いのは、このうち議決権制限株式(第3号)、拒否権付株式=黄金株(第8号)、取得条項付株式(第6号)です。これらを組み合わせると、後継者に議決権を集めつつ、先代や他の相続人には財産的な価値を渡す、という設計ができます。こうした種類株式は、上場していない会社で使われます。実際、スタートアップの資金調達では種類株式(優先株式)の利用が一般的で、上場の直前に普通株式へ戻す条項を付けておくのが通例です。事業承継でも、同じ非公開会社の仕組みとして使えます。

2. 黄金株(拒否権付株式)の仕組み

黄金株とは、正式には拒否権付種類株式(会社法第108条第1項第8号)です。株主総会や取締役会で決議する一定の事項について、通常の決議に加えて、黄金株を持つ株主だけで構成される種類株主総会の決議も必要とする株式をいいます。裏を返せば、その種類株主総会で否決すれば、会社はその事項を実行できません。黄金株を1株持っているだけで、定めた対象事項について事実上の拒否権を握れることになります。

黄金株(拒否権付株式)の基本的な仕組み(会社法第108条第1項第8号)
① 定款で、一定の事項(例:取締役の選任・解任、合併、事業譲渡、定款変更)について、黄金株の種類株主総会の決議を必要とすると定める。
② 対象事項は、通常の株主総会・取締役会の決議に加えて、黄金株の種類株主総会でも可決されなければ効力を生じない。
③ 黄金株の保有数は1株でよい。1株で対象事項に拒否権を持つ。
※発行には定款変更(株主総会の特別決議)と登記が必要です。種類株式の内容は登記事項になります。

3. 事業承継で黄金株が使われる理由

黄金株が事業承継で使われるのは、冒頭で触れた渡すタイミングのズレを埋められるからです。自社株は早めに後継者へ渡して相続財産を圧縮したい。しかし後継者に経営を任せきる自信はまだない。この二つは、そのままでは両立しにくい要望です。

ここで、先代が黄金株を1株だけ手元に残し、株式の大半を後継者に贈与すると、財産としての株式は後継者に移りながら、重要な意思決定には先代の歯止めが残ります。後継者を育てる期間中、先代が最後の安全弁を握っておく、という段階的な承継の設計です。後継者が独断で会社を売却したり本社の不動産を処分したりしようとしても、先代が判断能力のあるうちは止められます。

4. 黄金株を設計するときのポイント

黄金株を設計するときは、拒否権の対象事項を絞るのが通常です。あらゆる決議に拒否権を及ぼすと、後継者は何も決められず、承継させた意味が薄れるためです。これは法的な要請というより、会社を実際にまわしていくうえでの調整です。実務では、取締役の選任・解任、合併・会社分割・事業譲渡、定款変更、募集株式の発行といった、会社の根幹に関わる事項に限定することが多いです。

手続としては、定款変更(株主総会の特別決議)と登記が必要です。新たに黄金株を発行する場合のほか、既存の株式の一部を黄金株に変更する場合は、その株主の同意など、より慎重な手続が必要になります。どの事項を対象にするか、既存の株式との関係をどう整理するかは、会社の実情に応じて設計します。

5. 黄金株を発行した後に気をつけたいこと

ただし、黄金株には、発行した後に気をつけておきたい点がいくつかあります。

(1) 相続で非後継者に渡ること

先代が黄金株を持ったまま亡くなると、その黄金株は後継者以外の相続人に相続されかねません

そのため、黄金株に保有者の死亡を条件とする取得条項(会社法第108条第1項第6号)を付けておいたり、遺言で黄金株を後継者に承継させておくといった対応が必要になります。

(2) 将来のM&A・上場の妨げ

黄金株が残っていると、第三者へ会社を売却する(M&A)際や、株式を公開する(上場)際の妨げになることがあります。将来、会社を外部に売る可能性や上場の可能性があるなら、いつ・どのように黄金株を消すかまで見据えて発行します。

(3) 登記で外部に見える点

種類株式の内容は登記事項であり、金融機関や取引先が登記を見れば黄金株の存在を把握できます。拒否権の対象を広げすぎると、ガバナンス上の懸念を持たれたり、経営の停滞を招いたりすることもあります。対象事項を絞るのは、この観点からも大切です。

6. 属人的定め(株主ごとに異なる取扱い)という選択肢

議決権を先代の手元に残しておく別の方法として、会社法第109条第2項の属人的定めがあります。これは、非公開会社に限り、株主ごとに議決権や配当の取扱いを変えられる定款の定めです(実務では「属人的株式」とも呼ばれますが、会社法にこの用語自体はありません)。たとえば「先代が保有する株式は1株につき複数個の議決権を持つ」と定めれば、先代は少数の株式でも議決権の過半数を維持できます。

黄金株が種類株式(株式そのものに拒否権という内容を付ける)であるのに対し、属人的定めは「人」(株主)に着目した定款の定めである点が違います。そのため登記されず、機動的に使える一方、この定めを設ける定款変更には特殊決議(総株主の半数以上であって、総株主の議決権の4分の3以上に当たる多数)が必要です(会社法第309条第4項)。また、株主平等の原則との関係で、定め方によっては効力が問題になることもあり、設計には専門的な判断を要します。

7. 上場会社との違いと税務の注意点

ここまでの種類株式は、非上場の同族会社の事業承継で機能する仕組みです。上場市場では、黄金株のような拒否権付株式は既存株主の利益を害する恐れがあるとして、原則として認められていません

税務の面では、1点だけ押さえておきます。黄金株の相続税評価は、普通株式と同じです。国税庁の財産評価基本通達の取扱いでは、拒否権付株式は拒否権を考慮せずに評価するとされており、黄金株だから評価額が上がることはありません。

8. 弁護士の視点—経営(会社法)と遺留分(民法)の切り分け

種類株式は、会社の経営(議決権)を守るための会社法の話です。一方、株式を後継者に集中させたときに他の相続人から生じる遺留分(お金)の問題は、民法の別の話です。この二つを分けて考えると、設計が整理しやすくなります。経営の主導権は黄金株や属人的定めで確保し、遺留分は代償金(生命保険)・経営承継円滑化法の民法特例・遺留分の事前放棄などで手当てする、という役割分担です。遺留分側の設計は、兄弟記事(事業承継と遺留分)で詳しく扱っています。

種類株式は、一般的にあまり馴染みがないため、スタートアップの資金調達の場面以外では、目にする機会が多くありません。また、上場企業は種類株式を基本的に発行できないため、普段あまり見かけないかもしれません。しかし、事業承継や相続の場面ではかなり有効で、実務でもよく用いられるスキームです。柔軟な設計もでき、もっと広く知られてよい仕組みだと考えています。

よくある質問

はい。黄金株(拒否権付株式)は、対象として定めた事項について種類株主総会の決議を必要とする仕組みのため、1株持っているだけで、その事項に事実上の拒否権を持てます。むしろ、拒否権の対象事項を広げすぎないことと、先代の死亡後に誰が持つか(回収の設計)を最初に決めておくことのほうが大切です。発行には定款変更(株主総会の特別決議)と登記が必要です。
何も手当てをしないと、黄金株も他の財産と同じく相続の対象になり、後継者以外の相続人に渡ることがあります。その相続人が会社の重要事項に拒否権を持つことになりかねません。これを防ぐには、黄金株に保有者の死亡を条件とする取得条項(会社法第108条第1項第6号)を付けて死亡時に会社が回収できるようにするか、遺言で後継者に承継させておきます。いずれも黄金株を発行するときに決めておくのが安全です。
高くなりません。国税庁の財産評価基本通達の取扱いでは、拒否権付株式(黄金株)は拒否権を考慮せずに評価するとされており、普通株式と同じ評価になります。ただし、株式の評価額は会社の状況によって大きく変わり、遺留分の場面では相続税評価とは異なる時価で評価されることもあります。具体的な評価額は税理士にご確認ください。
加山綾一 弁護士(東京弁護士会)
加山綾一(弁護士)
東京弁護士会所属(登録番号39453)。複数社の顧問、社外役員等を務める傍ら、弁護士主導の相続サポートプラットフォームを運営。中小企業の事業承継・遺産分割の実務に携わる。相続診断士。

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参考条文・参考資料

  • 会社法第108条(異なる種類の株式)
  • 会社法第108条第1項第8号(拒否権付種類株式=黄金株)
  • 会社法第108条第1項第6号(取得条項付株式)
  • 会社法第108条第1項第3号(議決権制限株式)
  • 会社法第109条第2項(株主ごとに異なる取扱いの定め=属人的定め。実務上の通称「属人的株式」)
  • 会社法第309条第4項(属人的定めの定款変更に必要な特殊決議)
  • 国税庁 財産評価基本通達(種類株式の評価/拒否権付株式は拒否権を考慮せず評価)
  • 国税庁「相続等により取得した種類株式の評価について(照会・回答)」(平成19年)
  • 国税庁「取引相場のない株式の評価」タックスアンサー No.4638https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4638.htm
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