不動産を相続したら最初にやること—手続きの流れと弁護士が教える注意点【2026年版】
親が亡くなり実家や土地を相続することになった——しかし、相続の手続きがどこから始まるのか、何をすれば良いのか、よくわからないという方は多くいます。特に不動産の相続は、2024年4月以降に義務化された相続登記の期限など、知らないと困るルールがあります。この記事では、不動産を相続したときに最初にやることから完了までの手続きの流れを、弁護士が実務的な視点で解説します。
- 不動産を相続したら、まず相続人の確定と遺産の調査から始める
- 2024年4月1日から相続登記が義務化。取得を知った日から3年以内に登記が必要
- 相続人が複数いる場合は遺産分割協議が必要。全員の合意がないと登記できない
- 相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内(課税対象者のみ)
- 不動産の名義変更(相続登記)の手続きは司法書士に依頼するのが一般的
不動産相続の手続きフロー
不動産を相続した際の手続きは、主に以下の順序で進めます。各ステップを確認しながら、期限のある手続きを優先して対応することが重要です。
死亡届の提出と相続開始の確認
被相続人(亡くなった方)の死亡届を、死亡の事実を知った日から7日以内に市区町村役場に提出します(戸籍法第86条第1項)。死亡届を提出することで相続手続きが正式に始まります。まず手元の遺言書の有無を確認してください。自筆証書遺言や秘密証書遺言があれば、開封前に家庭裁判所での検認手続きが必要です(公正証書遺言・法務局保管の自筆証書遺言は不要)。
相続人の確定(戸籍謄本の収集)
法定相続人を確定するために、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍を含む)を取得します。相続人には子・配偶者・親・兄弟姉妹などが含まれ(民法第887条〜第890条)、戸籍で相続人の全容を確認します。相続人の一人でも漏れると遺産分割協議が無効になるため、丁寧な確認が必要です。
遺産の調査(不動産・預貯金・債務の確認)
相続財産の全体像を把握します。不動産については固定資産税の納税通知書・名寄帳・登記簿謄本で確認します。被相続人名義の不動産が全国にある可能性があるため、固定資産税の課税証明書(名寄帳)を死亡した市区町村以外でも取得することをお勧めします。また、借入金・保証債務などのマイナスの財産も合わせて調査します。
相続放棄・限定承認の検討期限あり:3ヶ月
相続するかどうかを決めます。債務が資産を上回る場合など、相続したくない場合は相続放棄を検討します。相続放棄・限定承認の申述は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に行う必要があります(民法第915条第1項)。この期限を過ぎると単純承認(全財産・全債務を引き継ぐ)したものとみなされます。
遺産分割協議(相続人が複数いる場合)
相続人が複数いる場合、誰がどの遺産を取得するかを全員で話し合います(民法第907条第1項)。不動産は「誰が取得するか」「売却して代金を分けるか」「一人が取得して代償金を払うか」など、複数の選択肢があります。合意に達したら遺産分割協議書を作成し、相続人全員が実印で押印します。
相続登記(名義変更)期限あり:3年以内
遺産分割協議が終わったら、不動産の名義変更(相続登記)を法務局に申請します。2024年4月1日以降、相続による不動産取得を知った日から3年以内の登記が義務化されました(不動産登記法第76条の2)。正当な理由なく期限を超えると10万円以下の過料の対象になります。手続きは通常、司法書士に依頼します。
相続税の申告・納税期限あり:10ヶ月以内課税対象者のみ
相続財産の総額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合に相続税の申告が必要です。申告・納税の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。不動産は路線価(国税庁が定める評価基準)で評価されますが、小規模宅地等の特例を適用できる場合は大幅に評価額が下がるため、税理士に相談することをお勧めします。
⚠️ 相続登記の義務化(2024年4月1日以降)について
2024年4月1日以降に発生した相続だけでなく、それ以前に発生した過去の相続についても義務化が適用されます。過去に相続登記が未了のまま放置されている場合は、経過措置として2027年3月31日が期限です。「昔亡くなった親の不動産がそのままになっている」という場合は急いで対応が必要です。
相続登記をしないとどうなるか
相続登記を放置すると、以下のような問題が生じます。
- 売却できない:被相続人名義の不動産は売却・担保設定ができない。売却には先に相続登記が必要
- 二次相続で複雑化する:登記が未了のまま相続人の一人が亡くなると、相続人がさらに増え、協議が困難になる
- 差押えリスク:相続人の一人に借金があると、その相続人の持分(法定相続分)が差し押さえられる可能性がある
- 過料のリスク:義務化後は期限内に登記しないと10万円以下の過料が科される場合がある
不動産の相続と遺産分割の関係
不動産は現金と違い、簡単に均等分割できない財産です。そのため遺産の中に不動産があると、遺産分割協議でトラブルが起きやすくなります。主な選択肢は以下の3つです。
- 現物分割:不動産を特定の相続人が取得する(他に預貯金等があれば組み合わせて調整)
- 換価分割:不動産を売却して代金を相続人で分ける
- 代償分割:不動産を取得する相続人が、他の相続人に代償金を支払う
選択肢の詳しい説明は、こちらの記事をご参照ください。
相続人全員の合意なしに登記できるか
遺産分割協議が成立していない状態でも、法定相続分に基づいて各相続人の持分をそれぞれ登記する(法定相続分での相続登記)ことは可能です。これを相続登記の期限を守るために活用する方法もあります。
ただし、法定相続分での登記は共有状態のままになるため、その後の不動産の利用・処分に全員の合意が必要になります。あくまでも義務化の期限を守るための一時的な措置として使われることがあります。
実務のポイント:遺産分割協議書が未完成でも、遺産分割前に「相続人申告登記」という簡易な申請をすることで義務の履行とみなされます(不動産登記法第76条の3参照)。ただしこれは権利確定ではなく、後日、遺産分割が成立したら改めて登記が必要です。
よくある質問
参考文献・根拠条文
- 民法第887条〜第890条(相続人の範囲)
- 民法第907条(遺産の分割の協議又は審判)
- 民法第915条第1項(相続の承認又は放棄をすべき期間)
- 不動産登記法第76条の2(相続等による所有権の移転の登記の申請)⚠️ 法務局・e-govでの条文確認を推奨
- 法務省「相続登記の申請義務化について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html
- 国税庁「相続税の申告の概要」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4101.htm
- 永石一郎ほか『〔改訂版〕ケース別 遺産分割協議書作成マニュアル』(日本加除出版、2020年)p.52 ——遺産分割協議後の不動産登記手続(単独所有登記・共有登記の申請方法)
- 片岡武・管野眞一『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』(日本加除出版、2021年)p.169 ——相続分の譲渡がされた場合の登記手続と権利変動の公示方法

不動産相続で最も多いトラブルは、遺産分割協議が長期化し、その間に相続人の一人が亡くなって相続人の数がさらに増えてしまうケースです。特に「実家を誰が引き継ぐか」「売却するか」で兄弟間の意見が割れると、数年単位でこじれることがあります。2024年からの登記義務化はこうした放置状態を防ぐための制度ですが、義務化の期限だけを守ることを優先して法定相続分で登記してしまうと、後の分割をかえって難しくする場合もあります。まず弁護士や司法書士に相談して、全体の見通しを立ててから動くことをお勧めします。