遺産分割調停の流れ・期間・費用
—申立から解決まで弁護士が解説—【弁護士解説】
- 遺産分割調停は、遺産分割協議が整わない場合に家庭裁判所に申立てる手続き(民法907条2項)
- 申立先は原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所(家事事件手続法245条)
- 調停は通常1〜2ヶ月に1回の期日が開かれ、解決まで半年〜1年以上かかることが多い
- 調停が不成立になると自動的に審判手続きへ移行する(調停前置主義)
- 弁護士なしでも申立は可能だが、複雑な案件では弁護士のサポートが有効
遺産分割調停とは——協議が整わない場合の法的解決手段
相続人全員で行う遺産分割協議がまとまらない場合、または相続人の一部と連絡が取れない場合など、協議の継続が困難な状況では、家庭裁判所に遺産分割調停を申立てることができます。
調停の仕組み——裁判との違い
調停は裁判(訴訟)と異なり、当事者の合意を目指す手続きです。家庭裁判所の調停委員(弁護士・学識経験者などから選ばれた第三者)が間に入り、当事者それぞれの意見を聞きながら調整を行います。
- 合意が必要:調停で合意が成立するには、相続人全員の同意が必要です。一人でも反対すれば合意は成立しません
- 非公開:調停は非公開で行われ、調停委員と当事者が交互に面接する形で進みます(当事者が同席しないことも多い)
- 法的効力:調停が成立した場合の調停調書は確定判決と同一の効力を持ちます
調停前置主義——審判の前に調停が必要
遺産分割の場合、いきなり審判(裁判所による決定)を申立てることはできません。家事事件手続法は調停前置主義を定めており、審判を求める前に調停の申立てをしなければならないとされています。なお、相手方の所在が不明で調停への参加が期待できない場合など、例外的に調停を経ずに審判を申立てることが認められる場合もあります。
遺産分割調停の申立方法——管轄・書類・費用
① 申立先(管轄)
片岡武・管野眞一『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』(2021年) p.504 によると、遺産分割調停の管轄は以下のとおりです。
相手方が複数いる場合は、そのうちの一人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てることができます。例えば、相手方A(東京都在住)と相手方B(大阪府在住)がいる場合、東京家庭裁判所または大阪家庭裁判所のいずれにも申立てることができます(同書 p.504)。
申立人(自分)の住所地の家庭裁判所ではなく、相手方(他の相続人)の住所地が管轄となる点に注意が必要です。相手方が遠方に住んでいる場合は、移動のコストが生じます。ただし、当事者全員が合意すれば、いずれかに都合のよい家庭裁判所を選ぶこともできます。
② 必要書類
同書 p.53 によると、遺産分割調停の申立てに必要な書類は主に以下のとおりです。
| 書類 | 内容・備考 | 取得先 |
|---|---|---|
| 申立書 (+ 相手方人数分のコピー) |
家庭裁判所の書式を使用(裁判所ウェブサイトでも入手可)。相手方にコピーを送付するため、相手方の人数分を準備する | 家庭裁判所・裁判所ウェブサイト |
| 事情説明書 | 各裁判所が定める様式。申立ての背景・遺産の状況・当事者間の争点などを記載する | 各家庭裁判所 |
| 被相続人の出生〜死亡の戸籍謄本等 | 相続関係の全体像を証明するために必要。戸籍の附票も必要な場合がある | 本籍地の市区町村役場 |
| 相続人全員の戸籍謄本・住民票 | 各相続人の現在の氏名・住所等の確認のために必要 | 各自の戸籍地・住所地の市区町村役場 |
| 不動産の登記事項証明書 (登記簿謄本) |
遺産に不動産が含まれる場合に必要。土地の公図・建物の平面図も準備することが多い | 物件所在地の法務局 |
| 固定資産評価証明書 | 不動産の評価額確認のために必要 | 物件所在地の市区町村役場 |
| 預貯金通帳のコピー 残高証明書等 |
遺産の内容を明らかにするために準備(求められる場合) | 各金融機関 |
各書類の取得先について、同書 p.54 では次のとおり整理されています。
- 戸籍関係書類・戸籍の附票:本籍地の市区町村役場(戸籍担当係)
- 住民票関係書類:住所地の市区町村役場(住民登録担当係)
- 登記事項証明書・公図・建物平面図:物件所在地の法務局(不動産登記部門)
③ 申立費用
調停の申立てには、収入印紙代(申立手数料)と予納郵便切手が必要です。費用の詳細については、申立てる家庭裁判所に確認するか、裁判所の公式ウェブサイトをご参照ください。
遺産分割調停の流れ——申立から解決まで
必要書類をそろえて、管轄の家庭裁判所に申立書を提出します。申立書は窓口持参のほか、郵送でも可能です。
家庭裁判所が申立書を受理すると、相手方(他の相続人)に対して通知を行い、第1回調停期日を指定します。第1回期日は申立てから1〜2ヶ月後に設定されることが多いです。
調停期日は通常、調停委員2名(男女各1名が多い)と裁判官が担当します。申立人と相手方が交互に調停委員と面接し、それぞれの意見・主張を聞き取りながら調整が進みます。当事者が同席することは基本的にありません。片岡武・管野眞一『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』(2021年) p.36 では、合意を基礎とする調停・審判の運用の重要性と、中間合意調書の活用(個別の論点ごとに暫定的合意を書面化する方法)が解説されています。
すべての相続人が合意に至れば、調停調書が作成されます。調停調書は確定判決と同一の効力を持ち、その内容に基づいて不動産の相続登記・金融機関の名義変更等を行うことができます。
一方、合意が整わない場合は調停が不成立となり、自動的に審判手続きへ移行します(家事事件手続法272条3項)。
調停調書をもとに不動産登記の相続移転登記、預貯金の払い出し・名義変更等の具体的な手続きを行います。遺産分割調停が成立した場合、相続登記の申請は調停成立から3年以内に行う必要があります(不動産登記法76条の2第2項)。
遺産分割調停の期間と回数
遺産分割調停の期間は、事案の複雑さによって大きく異なります。一般的には以下のような傾向があります。
- 期日の間隔:通常1〜2ヶ月に1回(家庭裁判所の混雑状況や当事者のスケジュールによる)
- 期日の回数:比較的シンプルな案件で3〜6回、複雑な案件では10回以上になることもある
- 解決までの期間:半年〜1年程度が多いが、2〜3年かかるケースも少なくない
長期化しやすい要因としては次のものが挙げられます。
- 相続人の人数が多い(全員の合意が必要なため調整が複雑)
- 不動産の評価額について争いがある(鑑定手続きに時間がかかる)
- 特別受益・寄与分の主張がある(証拠収集・評価に時間がかかる)
- 相続人間の感情的対立が激しい
- 相手方が正当な理由なく期日に出頭しない
最高裁判所事務総局の司法統計によると、遺産分割調停事件の平均審理期間は長期化傾向にあります。調停が不成立となり審判に移行した場合、さらに期間が延びることが多く、全体として2年以上を要するケースも珍しくありません。
調停が不成立になったら——審判手続きへの移行
調停が不成立になると、調停申立ての時点で審判の申立てがあったものとみなされ、自動的に審判手続きが開始します(家事事件手続法272条3項)。改めて審判を申立て直す必要はありません。
審判とは何か
審判は、調停と異なり、当事者の合意がなくても裁判所(審判官)が遺産の分割方法を決定する手続きです。遺産の評価・特別受益・寄与分なども含め、裁判所が証拠に基づいて判断を下します。
- 強制力:審判の内容は当事者を拘束し、相手方が任意に従わない場合は強制執行も可能
- 即時抗告:審判の内容に不服がある場合は、審判書の送達から2週間以内に即時抗告(高等裁判所への不服申立て)ができます
- 現物分割の限界:分割できない財産(たとえば1棟の建物)については、換価分割(売却して代金を分ける)や代償分割(一人が取得し他に代償金を払う)が命じられることもあります
審判では裁判所が分割方法を決定するため、当事者の意向が完全には反映されないことがあります。自宅不動産について「売却したくない」という意向があっても、裁判所の判断によっては換価分割が命じられる可能性があります。合意による解決(調停成立)のほうが当事者にとっての柔軟性は高いため、可能な限り調停での解決を目指すことが重要です。
弁護士に依頼する場合の費用と効果
遺産分割調停は、弁護士なしで申立てることも法律上可能です。しかし、実務的には以下のような理由から弁護士の関与が有益です。
弁護士に依頼するメリット
- 弁護士が代理人として期日に出席できる(本人が毎回出頭しなくてよい場合がある)
- 特別受益・寄与分など法的な主張を適切に組み立てられる
- 証拠収集・評価(不動産鑑定の選定、金融機関への調査等)をサポートできる
- 感情的な対立が生じやすい場面で、当事者に代わって冷静に交渉できる
- 審判に移行した場合も引き続き対応できる
弁護士費用の目安
遺産分割調停の弁護士費用は、各法律事務所の料金体系によって異なります。一般的な相場については遺産分割を弁護士に頼む費用はいくら?の記事をご参照ください。
| 費用の種類 | 一般的な内容 |
|---|---|
| 着手金 | 調停開始時に支払う費用。遺産総額や事案の複雑さによって異なる |
| 報酬金(成功報酬) | 解決時に支払う費用。取得できた(または守った)経済的利益に基づいて計算されることが多い |
| 実費 | 鑑定費用・交通費・書類取得費用など(別途実費精算) |
よくある質問
Q:調停を申立てたら、相手方は必ず出席しなければなりませんか?
調停への出席は義務とされており、正当な理由なく欠席した場合は5万円以下の過料に処せられることがあります(家事事件手続法258条1項・51条1項)。ただし、実際には過料が科されないこともあります。相手方が出頭しない場合、調停は不成立となり審判手続きへ移行することになります。
Q:被相続人が残した遺言書がある場合でも調停はできますか?
遺言書がある場合は、原則として遺言に従って相続が行われます。ただし、相続人全員が合意した場合には、遺言の内容と異なる遺産分割を行うことができるとされており(実務的な見解)、その場合でも調停・審判の形式をとることが多いです。また、遺言の内容が遺留分を侵害している場合は、遺留分侵害額請求の問題も生じ得ます。
Q:海外在住の相続人がいる場合、調停はどうなりますか?
海外在住の相続人も調停の当事者となります。本人が出席する必要がありますが、毎回来日するのが難しい場合は弁護士に代理を依頼することが現実的です。また、書類の提出については、在外公館(大使館・領事館)での認証が必要になる場合があります。
遺産分割でお悩みですか?
「協議がまとまらない」「調停を申立てたい」
まずは弁護士に状況をお聞かせください。
引用裁判例・参考条文・参考文献
- 片岡武・管野眞一『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』(日本加除出版、2021年)p.36、p.48、p.53、p.54、p.504
- 民法第九百七条(遺産の分割の協議又は審判)
- 家事事件手続法第二百四十五条(管轄)
- 家事事件手続法第二百五十七条(調停前置主義)
- 家事事件手続法第二百七十二条(調停不成立の場合の審判移行)
- 不動産登記法第七十六条の二第二項(遺産分割後の登記申請期限)
- 裁判所「遺産分割調停」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_02/index.html

調停で多くの時間がかかるのは「遺産の確定」と「不動産の評価」です。特に不動産の評価は、相続人それぞれが希望する価格に差があることが多く、不動産鑑定士による鑑定を経ることになると期間が大幅に延びます。また、相続人の一人が期日に出席しない場合や、感情的な対立が激しい場合も長期化します。調停申立て前に弁護士に相談し、争点を絞り込んでおくことが、解決までの期間を短縮する上で重要です。