弁護士が教える遺産分割の3つの方法—現物・換価・代償分割の違いと選び方—
相続が発生したとき、複数の相続人で遺産をどう分けるかは、実務上もっとも頭を悩ませる問題の一つです。遺産分割には法律上、大きく分けて現物分割・換価分割・代償分割の3つの方法があります。それぞれに向いているケース・向いていないケースがあり、状況に合わない方法を選ぶと後々トラブルになりかねません。この記事では、3つの方法の仕組みと選び方を弁護士が解説します。
- 遺産分割の方法は法律上、現物分割・換価分割・代償分割の3種類がある
- どの方法を選ぶかは相続人全員の合意で決める(遺言がある場合を除く)
- 不動産が遺産に含まれる場合は、現物分割・代償分割・換価分割それぞれの有利不利を検討することが重要
- 合意できない場合は家庭裁判所への調停・審判申立てができる
- 代償分割では代償金の資力確認と、評価方法の合意が特に重要
遺産分割とは何か——なぜ必要なのか
被相続人(亡くなった方)に複数の相続人がいる場合、遺産は法律上、すべての相続人の共有財産になります(民法第898条第1項)。この状態では各相続人が遺産を単独で使用・処分することができないため、遺産分割によって各相続人の取得分を確定させる必要があります。
遺産分割が完了すると、その効力は相続開始時(被相続人の死亡時)にさかのぼって発生します(民法第909条)。つまり、遺産分割協議で「自宅は長男が取得する」と決めれば、被相続人が亡くなったときから長男が所有していたものとして扱われます。
遺産分割の3つの方法
民法第906条は、遺産分割の基準として「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」と定めています。この大きな裁量の中で、実務上は以下の3つの方法が使われています。
①現物分割——財産をそのままの形で分ける
現物分割とは、遺産の各財産をそのままの形で特定の相続人に割り当てる方法です。たとえば「自宅不動産は長男が取得し、預貯金は次男が取得する」という分け方がこれにあたります。
最もシンプルで理解しやすい方法ですが、財産の価値が均等でない場合は不公平感が生じやすい点に注意が必要です。不動産のように分割できない財産が1つある場合、その財産を取得した相続人と他の相続人との間で価値のバランスが崩れることがあります。
メリット手続きが比較的シンプル。不動産の売却が不要。思い入れのある物を手元に残せる。
注意点財産の評価額が均等でない場合、相続人間の不公平につながりやすい。法定相続分との差額の精算が別途必要になることがある。
②換価分割——売却して代金を分ける
換価分割とは、遺産の全部または一部を売却し、その売却代金を相続人で分配する方法です。不動産を売却して代金を均等に分けるケースが典型です。
現金による均等分配が可能なため、公平性の面では優れています。ただし、不動産の売却には費用(仲介手数料・測量費・税金など)がかかり、さらに被相続人から取得した不動産を売却した場合には譲渡所得税が課される可能性があります。また、先祖代々の土地や実家など、手放したくない財産がある場合には向きません。
メリット現金で均等に分配しやすい。価値の評価をめぐる争いが少ない。
注意点売却費用・税金が生じる。相続人の誰かが住んでいる場合は特に慎重な合意が必要。売却前の相続登記が必要(2024年4月以降は義務化)。
③代償分割——一人が取得し、他の相続人に代償金を払う
代償分割とは、特定の相続人が一定の財産を取得する代わりに、他の相続人に対して現金(代償金)を支払う方法です。たとえば「長男が自宅を取得し、次男に1,500万円を支払う」というケースがこれにあたります。
不動産を売却せずに特定の相続人(後継者・同居者など)に承継させたい場合に有効です。ただし、代償金を支払う相続人が実際に資力を持っていることが大前提です。代償金を払えない場合は事実上の合意が崩れ、紛争に発展することがあります。
メリット不動産を手放さずに済む。家業や農地の後継者に集中して承継させたい場合に適している。
注意点代償金を支払う相続人の資力確認が不可欠。財産の評価額(時価か路線価かなど)をどう決めるかで争いになりやすい。代償金の支払いを遺産分割協議書に明確に記載する必要がある。
3つの方法の比較
| 方法 | 向いているケース | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 財産の種類が多く、各相続人に均等に割り当てられる場合 | 財産評価のバランスが崩れやすい |
| 換価分割 | 不動産を誰も使用しておらず、現金分配が最優先の場合 | 売却費用・譲渡所得税が発生する |
| 代償分割 | 不動産を売らずに特定の相続人に承継させたい場合 | 代償金の資力と評価額の合意が不可欠 |
補足:共有分割という第4の方法 実務書(片岡武・管野眞一『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』p.433)によると、分割方法には上記3種類に加え、遺産を相続人の「共有」状態のまま分割する「共有分割」も認められています。ただし、共有状態は将来の紛争原因になりやすいため、家庭裁判所は共有分割を積極的には選択せず、協議でも原則として避けることが推奨されます。
どの方法を選ぶか——実務上の判断基準
不動産が遺産に含まれる場合
遺産の中に不動産がある場合は、次の点を最初に確認します。
- 誰かが今も居住・使用しているか
- 相続人の中に不動産を取得できる資力があるか(代償分割の場合)
- 相続人全員が売却に同意できるか(換価分割の場合)
- 遺産の中に不動産以外の財産があるか(現物分割で調整できるか)
誰かが居住している実家は換価分割が難しいことが多く、代償分割か現物分割が選ばれます。誰も居住していない収益物件や更地であれば換価分割が現実的な選択肢になります。
預貯金・有価証券が中心の場合
遺産の大部分が預貯金や株式・投資信託などの有価証券である場合は、現物分割または換価分割を組み合わせて対応するのが一般的です。預貯金は均等に分配しやすく、株式は評価額が変動するため換価(売却)してから分配する方法もよく使われます。
事業承継・農地が含まれる場合
被相続人が事業を行っていた場合や農地がある場合は、代償分割が有力な選択肢です。特定の後継者が事業・農地を一括して取得し、他の相続人に代償金を払う形が実務上多く見られます。この場合、事業用財産や農地の評価方法を専門家(税理士・不動産鑑定士など)とともに確定してから協議に臨むことが重要です。
実務上のポイント:3つの方法を組み合わせることも可能です。たとえば「自宅は代償分割(長男が取得し次男に代償金)、預貯金は現物分割」のように、財産の種類ごとに方法を使い分けることができます。
遺産分割は全員一致が原則——協議が成立しない場合は
どの方法を選ぶかを含め、遺産分割協議は相続人全員の合意によって成立します(民法第907条第1項)。一人でも反対すれば協議は成立せず、遺産は共有状態のままになります。
協議が成立しない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます(民法第907条第2項)。調停でも合意が得られない場合は、裁判官が分割方法を決定する審判へ移行します。審判では、法定相続分に基づいた現物分割・換価分割が命じられることが多くなります。
⚠️ 相続開始から10年が経過すると、寄与分や特別受益による相続分の修正が原則として適用されなくなります(民法第904条の3)。遺産分割協議が長引く場合は、この点も弁護士に相談することをお勧めします。
よくある質問
参考文献・根拠条文
- 民法第898条(共同相続の効力)
- 民法第906条(遺産の分割の基準)
- 民法第907条(遺産の分割の協議又は審判)
- 民法第909条(遺産の分割の効力)
- 民法第904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分)
- 最高裁判所「遺産分割(事件の種類と手続)」https://www.courts.go.jp/
- 片岡武・管野眞一『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』(日本加除出版、2021年)p.433 ——分割方法の4種類(現物・代償・換価・共有)と家庭裁判所の裁量
- 永石一郎ほか『〔改訂版〕ケース別 遺産分割協議書作成マニュアル』(日本加除出版、2020年)p.49-50 ——全部分割・一部分割、各分割方法の定義と実務的留意点

実務上、最もトラブルになりやすいのは代償分割です。「不動産は長男が取得し、代償金を払う」という合意ができても、実際に代償金の用意がない、あるいは評価額をめぐって後から争いが生じるケースは少なくありません。代償分割を選ぶ際は、代償金の支払い方法(一括か分割か)、支払い期限、財産の評価額の根拠(不動産鑑定評価か路線価か)を遺産分割協議書に詳細に記載しておくことが重要です。また、不動産の評価額は国税的観点(路線価)と市場価値(時価)で差が出ることが多く、この点が相続人間の摩擦になることがあります。早い段階で弁護士に相談しておくと、合意形成がスムーズになります。