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コラム

親の預貯金を使い込まれた
——立証のために今すぐやること【弁護士解説】

この記事でわかること
  • 「使い込みかも」と気づいたとき、真っ先にすべきこと
  • 証拠収集の具体的な方法(取引履歴の取得など)
  • 生前の使い込みと死後の使い込みで手続きがまったく異なる理由
  • 家庭裁判所の調停・審判では解決できないケースがある理由
  • 弁護士に相談すべきタイミングと、早期相談が重要な実務上の理由

「使い込みかも」と思ったとき、多くの人が感じる3つの迷い

親が亡くなり、遺産を調べてみると、生前に大きく預貯金が減っている。あるいは、施設入居中の親の通帳を確認したら、身に覚えのない多額の引き出しがある——。

こうした場面に直面したとき、多くの方が行動を起こせずに時間を過ごしてしまいます。その理由は、たいてい次の3つのどれかです。

「証拠がない。疑っているだけで確信が持てない」

「家族を疑って弁護士に相談するのは、悪いことをしている気がする」

「弁護士に頼むほどのことなのか。大げさではないか」

この記事では、こうした迷いに対して弁護士の立場からひとつひとつ答えていきます。最初に結論を申し上げます。「使い込みかもしれない」と思った時点が、行動するべき最善のタイミングです。時間が経つほど、証拠は消えていきます。

まず証拠を取ること——取引履歴の取得が出発点

使い込みを立証するにあたって、何よりも先に動くべきことがあります。被相続人名義の預貯金口座の取引履歴を取得することです。

「証拠がないから動けない」と感じている方の多くは、実はまだ証拠を探しに行っていません。取引履歴を取ってみて初めて、いつ・いくら・どの口座から引き出されていたかが明らかになります。これが使い込みを立証するうえでの土台となります。

  • 取引履歴の開示を金融機関に請求する 被相続人が亡くなった後であれば、相続人であることを証明する書類(戸籍謄本・相続人全員の印鑑証明書など)を持参して窓口で請求できます。対象口座が複数ある場合はすべての口座分を取得します。開示できる期間は金融機関によって異なりますが、多くは10年程度まで遡れます。
  • 引き出しのパターンを確認する 取引履歴を取得したら、金額・日付・引き出し方法(ATM・窓口)を確認します。特定の時期から頻繁に引き出しがある、ATM限度額(1日50〜100万円程度)での引き出しが続いている、などのパターンは使い込みを示す有力な手がかりになります。
  • 引き出しと使途を照合する 取引履歴の引き出しについて、介護費・入院費・生活費など正当な支出で説明がつくかどうかを検討します。領収書・施設からの請求書・通院記録などが手元にあれば合わせて確認します。説明がつかない引き出しが「使途不明金」として問題になります。
  • 弁護士に持ち込む 取引履歴を持参して弁護士に相談すると、法的に問題になりうる引き出しの見立てと、次にとるべき手段の方針を示してもらえます。この段階でご相談いただくのが最も早く、最も選択肢が広い状態です。
⚠️ 相手方への直接の問いただしは待ってください

「あなたが使い込んだのではないか」と疑っている相手に、証拠なしで直接問いただすのは逆効果になることが多いです。相手が口裏を合わせる時間を与えたり、証拠を隠滅したりする可能性があります。取引履歴などの客観的な証拠を手元に揃えてから、弁護士を通じて動くのが原則です。

「生前の使い込み」と「死後の使い込み」は法的処理がまったく異なります

使い込みが問題になる場面には、大きく2つあります。被相続人が亡くなる前(生前)の引き出しと、亡くなった後(死後)の引き出しです。一見似たような問題に見えますが、法律上の処理はまったく異なります。

特に重要なのは、「遺産分割(家庭裁判所の調停・審判)で解決できるかどうか」が、この2つで大きく違う点です。

  相手が「使い込んだ」と認める場合 相手が否定する・不明な場合
生前の
引き出し
家裁で解決の余地あり
相続人全員が合意すれば、その金額を「相手の取り分から差し引く」形で遺産分割の中で精算できる場合があります
別途、民事訴訟が必要
家庭裁判所は「誰が引き出したか」を確定する機関ではありません。不当利得返還請求訴訟または不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を地方裁判所に起こす必要があります
死後の
引き出し
条件付きで家裁対応可
2019年施行の民法906条の2により、相手が認め、かつ他の相続人全員が同意すれば、引き出された金額を遺産に含めて分割できるようになりました
別途、民事訴訟が必要
否認している場合は、生前の使い込みと同様、地方裁判所での民事訴訟(不当利得返還請求訴訟等)で解決するしかありません

つまり、相手が否定する使い込みの問題は、家庭裁判所の調停・審判では原則として解決できません。「家族間の話し合いが調わなければ調停・審判で決めてもらえる」と思っている方は多いですが、使い込みの立証については家庭裁判所に期待しすぎると行き詰まります。

民事訴訟(不当利得返還請求)で勝つために必要なこと

相手が否定する場合、地方裁判所での民事訴訟が必要になります。この訴訟で請求が認められるためには、大まかに言って次の事実を立証しなければなりません。

  1. 被相続人名義の口座から金員が引き出されたこと(取引履歴で証明)
  2. その引き出しをしたのが相手方であること
  3. 引き出しについて被相続人から正当な委任・授権がなかったこと
  4. 引き出した金員を相手方が自己のために費消したこと

②と③の立証が実務上の難関です。以下のような証拠が有効になりえます。

🏦 金融機関関連
  • 預貯金口座の取引履歴
  • ATM利用明細・防犯カメラ映像(保存期間に注意)
  • 通帳・キャッシュカードの管理状況
  • 窓口払戻しの場合:払戻請求書の筆跡・代理人欄
🏥 医療・介護関連
  • 被相続人の介護記録・認知症診断の有無
  • 施設・病院の請求書・領収書
  • 引き出し時点での被相続人の状態(寝たきり等)
📱 行動・連絡記録
  • 相手方が被相続人宅に頻繁に出入りしていた記録
  • 通帳・カードを預かっていたことを示す会話・メール
  • 相手方の支出・生活水準の変化(参考程度)
📋 委任・管理関係
  • 被相続人から管理を委任された事実(委任状・メモ等)の有無
  • 家計管理を誰がしていたか(公共料金引き落とし口座など)
  • 介護保険認定記録(認知能力の確認)

これらすべてが手元に揃うケースは稀です。どの証拠が使えるか、何を追加で収集すべきかは、個別の状況によって大きく異なります。だからこそ、証拠収集の段階から弁護士に関わってもらうことが重要になります。

「家族を疑って弁護士に相談するのは悪いこと」ではありません

加山綾一 弁護士のコメント(東京弁護士会 登録番号39453)

弁護士に相談するのはまだ敷居が高い、という感覚はよくわかります。それに加えて、「家族を疑って弁護士に相談する」というのが、まるで自分が悪いことをしているように感じてしまう——という気持ちも、多くの方から聞きます。

ただ、弁護士には守秘義務があります。相談した内容は口外できません。「ちょっと聞いてみた」という段階で、相手の家族に何かが伝わることはありません。相談したこと自体が問題になることもない。「疑っているだけで確信が持てない」という段階でも、弁護士に話すことで、問題の輪郭が見えてくることがあります。

証拠については、「状況によってどんな証拠が集められるかが変わる」というのが正直なところです。取引履歴を取得した後で、次に何を集めるべきかは、個別の事情を聞かないと答えられない。だからこそ、早めにご相談いただきたいと思います。時間が経つと防犯カメラの映像は消え、通帳は処分され、証言してくれるはずだった人の記憶も薄れていきます。

弁護士に相談するタイミング——「疑った時点」が最善です

「もっと早くご相談いただければ」——これは弁護士が口にする言葉の中でも、特によく使うものです。使い込みの問題では、時間の経過が直接、証拠の消失につながります。

  • ATMの防犯カメラ映像:金融機関によりますが、保存期間は1〜3ヶ月程度のことが多いです
  • 金融機関窓口での払戻請求書:保存期間は機関によって異なりますが、数年で廃棄されるケースもあります
  • 相手方の記憶・証言の変化:時間が経つと「覚えていない」が通りやすくなります
  • 相手方による証拠の処分:問題が表面化する前に通帳・メモを処分される可能性があります

「まだ疑っているだけだから」「証拠がないから」という理由でご相談を先送りにすることが、むしろ証拠を取れなくする原因になります。

使い込みの問題は、疑念が生じた時点が相談の最善タイミングです。弁護士へのご相談は、家族関係を壊す行為ではなく、自分の権利を守るための行動であり、守秘義務の下で完全に秘密が守られます。

まとめ

  • まず取引履歴を取得し、使途不明な引き出しを特定します。相手への直接の問いただしは、証拠が揃うまで控えてください
  • 生前の使い込みと死後の使い込みは、法的手続きが根本的に異なります。相手が否定する場合は家庭裁判所(遺産分割調停・審判)では解決できず、地方裁判所での民事訴訟が必要になります
  • 民事訴訟で立証が求められるのは「誰が引き出したか」「正当な委任がなかったか」という点です。証拠の種類と収集方法は状況次第で変わるため、早期に弁護士に相談することが証拠確保のカギになります
  • 弁護士には守秘義務があります。「家族を疑うのは申し訳ない」という心理的ハードルは理解できますが、相談したこと自体は誰にも知られません。疑った時点が相談の最善タイミングです
加山 綾一(弁護士)
東京弁護士会所属(登録番号39453)。法律事務所LAB-01。
弁護士登録から16年、企業法務・事業承継を中心に実務を重ねてきた。顧問先の経営者・役員と接する中で相続問題に直面するケースが増えたことを契機に、生前対策から紛争代理まで一貫して対応できる相続サポートを提供している。

「使い込みかもしれない」——そう思ったら、まずご相談を

証拠収集の方法から訴訟の見通しまで、守秘義務の下でお話を聞きます。
相談したこと自体が外に漏れることはありません。

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