遺留分とは何か——割合・計算方法・請求できる人を弁護士が解説【弁護士解説】
- 遺留分を請求できる人は配偶者・子・直系尊属のみ。兄弟姉妹には遺留分がない(民法第1042条)
- 遺留分の割合は直系尊属のみの場合は1/3、それ以外は1/2が基本。各自の遺留分額は法定相続分を乗じて算出する
- 生前贈与は原則1年以内しか遺留分計算に算入されない。ただし相続人への贈与は10年以内かつ特別受益(婚姻・養子縁組・生計の資本)に限る
- 侵害額計算では寄与分は考慮されない。遺産分割では寄与分が考慮されるため見落としやすい点です
- 遺留分侵害額請求権の時効は知った時から1年。相続開始から10年経つと、知っているかどうかにかかわらず消滅する
遺留分とは何か——なぜ存在するのか
民法は遺言の自由を原則として認めています。遺言があれば、財産を特定の人に全て遺贈することも法的には可能です。しかし、それを無制限に認めると、長年連れ添った配偶者や子供が一切遺産を受け取れないという事態が起き得ます。遺留分制度は、こうした遺言による相続人の排除を一定限度で防ぐために設けられたものです。
平成30年(2018年)の民法改正以前は、「遺留分減殺請求権」という名称で、遺贈・贈与の効力を一部無効にして現物で取り戻す制度でした。しかし現物返還では、遺贈された株式や不動産が分散してしまい、事業承継に支障が生じる問題がありました。そこで改正後は「遺留分侵害額請求権」として、遺贈・贈与の効力は維持したまま、侵害された額に相当する金銭の支払いを請求できる制度に改められました(民法第1046条)。
重要:「遺留分減殺請求権」「遺留分減殺」は改正前の旧法用語です。現行法(平成30年改正・令和元年7月1日施行)では「遺留分侵害額請求権」が正しい名称です。混用しないよう注意してください。
遺留分を請求できる人の範囲(民法第1042条)
遺留分を持つ「遺留分権利者」は、民法第1042条によって明確に限定されています。
遺留分権利者となる相続人
- 配偶者
- 子(代襲相続人となる孫・ひ孫を含む)
- 直系尊属(父母・祖父母等。相続人となる場合のみ)
遺留分がない人
民法第1042条は「兄弟姉妹以外の相続人」に遺留分を認めています。つまり、兄弟姉妹・甥・姪が相続人になっている場合でも、遺留分はありません。遺言で兄弟姉妹が一切の財産を受け取れないとされた場合でも、遺留分侵害額請求を行うことはできません。
また、相続欠格者・廃除された者・相続放棄をした者も遺留分権利者にはなりません(民法第891条・第892条・第939条参照)。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。」
遺留分の割合(相続人の構成別)
遺留分の割合は2段階で計算します。まず相続人全体の総体的遺留分割合(1/3または1/2)を確定し、次に各自の法定相続分を乗じて各自の遺留分額を算出します(解説書では「個別的遺留分」と呼ばれることがありますが、条文上の用語ではありません)。
| 相続人の構成 | 総体的遺留分 | 各自の遺留分額 |
|---|---|---|
| 配偶者のみ | 1/2 | 1/2 |
| 配偶者+子1人 | 1/2 | 配偶者:1/4 子:1/4 |
| 配偶者+子2人 | 1/2 | 配偶者:1/4 子(各):1/8 |
| 子のみ1人 | 1/2 | 1/2 |
| 子のみ2人 | 1/2 | 各1/4 |
| 配偶者+直系尊属(父母) | 1/2 | 配偶者:1/3 父母(各):1/12 |
| 直系尊属のみ(父母2人) | 1/3 | 父母(各):1/6 直系尊属のみが相続人の場合のみ1/3 |
| 兄弟姉妹(のみ、または配偶者と) | 遺留分なし(民法第1042条は兄弟姉妹を対象外としている) | |
各自の遺留分額の計算式:遺留分算定基礎財産 × 総体的遺留分割合(1/2 または 1/3)× 各自の法定相続分(民法第1042条第2項)
遺留分算定基礎財産の計算(民法第1043条・第1044条)
遺留分の計算で最も重要で、かつ争いが生じやすいのが算定基礎財産の算出です。単純に相続開始時の財産だけを見るのではなく、過去の贈与も一定範囲で加算されます。
+ 遺留分算定基礎に算入される贈与の価額
- 相続債務の全額
加算される贈与の範囲——1年ルールと10年ルール
生前贈与がすべて算入されるわけではありません。受贈者が誰かによって算入期間が大きく異なります。
| 受贈者の属性 | 算入対象期間 | 対象となる贈与の種類 |
|---|---|---|
| 相続人以外の第三者 | 相続開始前1年間 | すべての贈与 |
| 相続人 | 相続開始前10年間 | 婚姻・養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与(特別受益)に限る 日常的な少額贈与(お年玉・祝い金等)は含まれない |
| 双方悪意の贈与 (1年または10年以前のもの) |
期間制限なし | 被相続人と受贈者の双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与 「悪意」の認定については下記参照 |
「悪意」の認定基準(判例・立法担当者解説)
「悪意」とは加害の意思(意図)ではなく、遺留分権利者に損害を加えることになる事実関係を客観的に認識していることを指します(大審院昭和9年9月15日判決・大審院民事判例集13巻20号1792頁)。ただし、判例はさらに踏み込み、「贈与時点で相続が開始されたとすれば遺留分侵害になると知っていた」というだけでは足りないとしています。被相続人が死亡する時点、つまり相続開始時点においても確実に遺留分を侵害するものであることを予見していたことが必要とされています(大審院昭和11年6月17日判決・大審院民事判例集15巻15号1246頁)。立法担当者によれば、この要件を満たすのは「被相続人が死の間際に財産の大半を贈与した場合等に限られる」と解されており、実務上適用される場面は極めて限定的です(堂薗幹一郎ほか『逐条解説 改正相続法』(商事法務、2024年)p.215-217)。
相続人への贈与の10年ルールは、すべての贈与が対象になるわけではありません。民法第1044条第3項は算入対象を「婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与」つまり特別受益に該当する贈与に限定しています。日常的な少額贈与や、特別受益に当たらない贈与は10年以内でも算入されません。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。」
2 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。
3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。」
なお、贈与の価額は贈与時ではなく相続開始時を基準として評価します(民法第904条の準用)。不動産を贈与した後に価値が上がっていても下がっていても、相続開始時の価額で計算されます。
遺留分侵害額の計算式と計算例(民法第1046条)
具体的に侵害された金額(遺留分侵害額)は、単純に各自の遺留分額と受け取った財産を比べるだけでは算出できません。民法第1046条第2項本文は「第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する」と規定しています。これをわかりやすく整理すると以下の式になります(②が一号、③が二号、④が三号に対応)。
= ① 各自の遺留分額(民法第1042条による額)
- ② 遺留分権利者が受けた遺贈・特別受益贈与の価額 ←一号(控除)
- ③ 遺留分権利者が取得すべき相続分(具体的相続分相当額) ←二号(控除)
+ ④ 遺留分権利者が承継する相続債務の額 ←三号(加算)
遺産分割では介護等の貢献(寄与分)が加算されますが、遺留分侵害額の計算においては寄与分は一切考慮されません(③の相続分は寄与分を反映しない額)。これは、寄与分の認定に家庭裁判所の判断が必要で客観的な金額確定が困難なためです。
計算例——遺産2000万円・子2人・長男が全額受ける遺言のケース
被相続人A(配偶者なし)、子は長男Bと次男Cの2人。Aの遺言に全財産を長男Bに相続させる旨があった場合を想定します。遺産2000万円、生前贈与なし、相続債務なしとします。
遺留分額 = 2,000万円 × 1/2 × 1/2 = 500万円
= 500万円
次男Cは長男Bに対して500万円の金銭支払いを請求できます。長男Bは不動産等の相続財産の所有権は維持したまま、500万円を現金で支払う義務を負います。
2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額」
遺留分侵害額請求の基本的な流れ
遺留分侵害額請求は、内容証明郵便による通知から始まります。請求の流れの概要は以下のとおりです。詳細な手続き(交渉の進め方・調停・訴訟への移行)については、遺留分侵害額請求の流れ(②)で解説しています。
- 侵害額の計算:算定基礎財産・個別遺留分・侵害額を確認する
- 内容証明郵便の送付:時効中断のため、まず書面で請求の意思表示を行う(時効に注意)
- 協議・交渉:受遺者・受贈者と支払額・支払方法について交渉する
- 調停・訴訟:協議が不調の場合、家庭裁判所の調停または地方裁判所への訴訟で解決を図る
受遺者・受贈者が支払いを拒む場合の救済:受遺者・受贈者が金銭の即時支払いに困窮する場合、裁判所に支払期限の延長(「期限の許与」)を求めることができます(民法第1047条第5項)。ただし遺留分権利者側の請求権は消滅しません。
遺留分侵害額請求権の時効(民法第1048条)
遺留分侵害額請求権には2種類の期間制限があります。どちらか早い方で権利が消滅します。
| 種類 | 起算点 | 期間 | 効果 |
|---|---|---|---|
| 消滅時効 | 相続の開始 かつ 遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時 | 1年 | 時効消滅(援用要) |
| 除斥期間 | 相続開始の時 | 10年 | 知っているかどうかにかかわらず消滅 |
「知った時」とは、遺留分が侵害されている事実(遺贈・贈与の内容)と、侵害の相手方(受遺者・受贈者が誰か)の双方を知った時点から起算されます。遺言書の内容を知ったとしても、相手方を具体的に知らなければ起算されないという考え方があります。
遺言書を発見してから慌てず準備を進めていると、気づかないうちに1年が経過してしまうことがあります。まず内容証明郵便で請求の意思表示を行うことで時効の完成猶予(民法第150条)を図ることが重要です。時効が完成すると請求権そのものが消滅してしまうため、早期に弁護士に相談することを強くお勧めします。
遺留分の放棄(民法第1049条)
遺留分は相続人の権利ですが、放棄することができます。ただし、タイミングによって手続きが異なります。
相続開始前の放棄(生前に放棄する場合)
被相続人が生存している間に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可が必要です(民法第1049条第1項)。親からの圧力で強制的に放棄させられることを防ぐための保護規定です。家庭裁判所は、放棄が任意かつ合理的な理由に基づくものかどうかを審査します。
相続開始後の放棄
相続が開始した後は、特別な手続きなく自由に遺留分侵害額請求権を行使しないという選択ができます。単に請求しなければ事実上の放棄と同様の効果になります。
一人の放棄は他の相続人に影響しない
重要なのは、共同相続人のうち一人が遺留分を放棄しても、他の相続人の遺留分割合は増加しないという点です(民法第1049条第2項)。一人が放棄した分が他の相続人に回るわけではありません。
2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。」
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参考条文・文献
- 永石一郎ほか『〔改訂版〕ケース別 遺産分割協議書作成マニュアル』(新日本法規出版、2020年)p.46(遺留分制度の意義)
- 片岡武・管野眞一『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』(日本加除出版、2021年)p.585-586(総体的遺留分・個別的遺留分の算定)
- 堂薗幹一郎・脇村真治・神吉康二・宇野直紀『逐条解説 改正相続法』(商事法務、2024年)p.215-217(双方悪意の贈与・悪意の認定基準)
- 大審院 昭和9年9月15日判決(大審院民事判例集13巻20号1792頁)——悪意の意義(加害意思不要・客観的認識で足りる)
- 大審院 昭和11年6月17日判決(大審院民事判例集15巻15号1246頁)——悪意の認定(相続開始時点での将来予測まで必要)
- 最高裁判所第二小法廷 昭和51年3月18日判決(民集30巻2号111頁)——贈与財産の評価時期(相続開始時基準)
- 民法第1042条(遺留分の帰属及びその割合)
- 民法第1043条(遺留分を算定するための財産の価額)
- 民法第1044条(贈与の算入範囲・10年ルール)
- 民法第1046条(遺留分侵害額の請求)
- 民法第1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
- 民法第1049条(遺留分の放棄)
遺留分侵害額請求で最もよく誤解されるのが10年ルールです。10年以内の贈与はすべて算入されると思っている方が多いのですが、正確には、相続人への贈与のうち婚姻・養子縁組・生計の資本として行ったもの(特別受益)に限るという条件があります。毎年少額ずつ行った定期的な贈与は、原則として特別受益に当たらないため、10年以内に行われたものでも算入されません。この点を誤解したまま計算すると、実際に請求できる額とズレが生じます。
もう一つよく問われるのが寄与分との関係です。長年介護をしてきた長女が、何もしていなかった次男に遺留分を請求された場合、介護した分を遺留分の計算で減額してほしいという希望は通りません。遺留分の計算では寄与分は一切考慮されないからです。介護による貢献を主張するには、遺産分割手続き(調停・審判)の中で寄与分として主張する必要があります。遺留分と寄与分は別の制度として機能しており、両者は連動していません。