この記事のポイント
- 死亡診断書は最初から5〜10枚受け取る。後からの再発行は手間がかかる
- 相続放棄の起算点は「死亡日」ではなく「自分が相続人と知った日」
- 自筆証書遺言は勝手に開封すると過料。家庭裁判所の検認が必要
- 未支給年金は請求できる。年金の停止が遅れると返還請求が来る
- 負債を見落とすと単純承認後に取り返しがつかない。借金調査を怠らない
- 口頭合意は法的には成立するが、実務手続きには書面が必須。遺産分割協議書を必ず作成し、全員が実印を押す
まず全体の期限を把握する
相続手続きは「期限があるもの」と「なるべく早く動くもの」の2種類に分かれます。下の表で全体像を確認してから、各手続きの詳細を読んでください。
| 期限 | やること |
|---|---|
| 7日以内 | 死亡診断書の取得、死亡届の提出、火葬許可申請 |
| 14日以内 | 年金・健康保険・世帯主変更の手続き |
| なるべく早く | 遺言書確認、相続人調査、相続財産調査 |
| 3ヶ月以内 | 相続放棄または限定承認の判断・手続き |
| 4ヶ月以内 | 準確定申告 |
| 協議次第(相続税申告前まで) | 遺産分割協議 |
| 10ヶ月以内 | 遺産分割協議、相続税申告・納付 |
やること① 死亡診断書を複数枚受け取る
死亡を確認した医師から死亡診断書(または死体検案書)を受け取る。これが以後の全手続きの起点となる。
複数枚もらっておく。金融機関によっては原本を求められることがあるようです。保険会社・年金事務所など複数の窓口に提出するケースを想定し、5〜10枚が目安とされることが多いようです。後から再発行は手間と費用がかかるため、医師に依頼する段階で枚数を相談しておくのが安心です。
1枚しか受け取らずに手続きが滞るケースが頻発する。「後でコピーすればいい」と思いがちだが、原本提出を求める機関が複数あるため、最初から枚数を確保することが重要。
やること② 死亡届を提出し、火葬許可証を取得する7日以内
死亡届は、死亡の事実を知った日から7日以内に、死亡者の本籍地または届出人の住所地の市区町村役場へ提出しなければなりません(戸籍法第86条第1項)。国外で死亡した場合は3か月以内です。届け出を怠った場合は5万円以下の過料に処せられます(戸籍法第137条)。同時に火葬許可申請を行い、火葬許可証を取得します。
死亡届の提出は代理人でも可能。葬儀社が代行してくれることも多い。提出後に火葬許可証は埋葬許可証になるため、大切に保管する。
「7日以内」という期限を知らずに放置するケースがある。葬儀の準備に追われて忘れがちなので、葬儀社に代行を依頼するのが現実的。
やること③ 年金・健康保険・世帯主の変更手続きをする14日以内
【年金受給権者死亡届】
年金受給者が亡くなった場合、原則として「年金受給権者死亡届」を年金事務所等に提出する。提出期限は国民年金が死亡から14日以内(国民年金法第105条第4項・同施行規則第24条)、厚生年金が死亡から10日以内(厚生年金保険法第98条第4項)。
マイナンバーが収録されている場合は届出が原則不要。日本年金機構にマイナンバーが収録されていれば、市区町村への死亡届の提出により年金機構に情報が通知されるため、「年金受給権者死亡届」の提出は原則として不要です(日本年金機構公式情報:nenkin.go.jp)。ただし、マイナンバー収録の有無が不明な場合は、事前に年金事務所へ確認するのが確実です。
未支給年金の請求も忘れずに。亡くなった月分まで受け取れていない年金は、一定の遺族が「未支給年金」として自分の名前で直接請求できます(国民年金法第19条第1項)。
この未支給年金は相続財産ではなく、遺族固有の権利です。そのため:
- 相続放棄をしても受け取れる(相続財産に影響されない)
- 遺産分割の対象にならない(協議不要・法律で決まった順位で請求)
- 相続税ではなく所得税(一時所得)として課税される
請求できる遺族の順位(死亡当時に生計を同じくしていた者に限る):配偶者→子→父母→孫→祖父母→兄弟姉妹→三親等内の親族。申請を忘れる方が多いので意識しておく。
年金停止が遅れると過払い分の返還義務が生じる。死亡後に年金が振り込まれた場合、その分は返還しなければなりません。悪質な場合は3年以下の懲役または100万円以下の罰金が問われる可能性があります(国民年金法第111条)。
【世帯主変更届】
世帯主が亡くなった場合は、市区町村へ世帯主変更届を提出する。変更があった日から14日以内が期限です(住民基本台帳法第25条)。
残った世帯員が1名だけの場合、または残った世帯員が15歳未満のみの場合は届出不要です。
【住民票の抹消(住民異動届は不要)】
死亡届の提出により、住民票は自動的に抹消されます(住民基本台帳法の仕組みによる)。転出届などの「住民異動届」を別途提出する必要はありません。
【健康保険の資格喪失届】
被保険者が死亡した場合、死亡から5日以内に事業主が資格喪失届を提出。被扶養者がいる場合はあわせて手続きが必要。
被保険者(会社員等)が死亡すると、その被扶養者(妻・子など)の健康保険資格も同時に失効します。被扶養者は失効から14日以内に国民健康保険などへ自分で加入しなければなりません。事業主が被保険者の資格喪失届を提出する際に被扶養者の手続きを失念するケースや、遺族が自分で加入し直す必要があることを知らないケースが多く、気づかずに無保険期間が生じることがあります。必ず確認リストに加えておいてください。
+α 葬儀費用の給付金制度(申請を忘れずに)
葬儀にかかった費用の一部は、加入していた医療保険から給付を受けられます。申請しないと自動的には給付されないため、忘れずに手続きをしてください。
【埋葬料(健康保険)】
被保険者が業務外の事由により死亡したとき、生計を維持していた者で埋葬を行う者に5万円が支給されます(健康保険法第100条第1項)。被扶養者が死亡した場合は家族埋葬料(5万円)の対象になります(健康保険法第113条)。
申請先:加入していた健康保険の保険者(協会けんぽ・健保組合等)。申請期限:埋葬を行った日の翌日から2年以内(健康保険法第193条第1項)。
【葬祭費(国民健康保険)】
国民健康保険の被保険者が死亡した場合、葬祭を行った者(喪主)に給付されます(国民健康保険法第58条第1項)。金額は自治体によって異なり、1万〜7万円程度が多いです。
申請先:市区町村の国保窓口。申請期限:葬祭を行った日の翌日から2年以内(国民健康保険法第110条第1項)。
申請しないと給付されない。2年の期限は一見余裕があるように見えますが、相続手続きの忙しさの中で忘れてしまい、時効になるケースが非常に多いです。死亡届提出後の早い段階でリストに加えておくことを強くおすすめします。
手続きの進め方に迷ったら弁護士に相談
どこから始めればいいかわからない——そのような段階からでも相談できます。
やること④ 遺言書の有無を確認するなるべく早く
自宅・貸金庫・法務局(自筆証書遺言書保管制度)・公証役場を確認する。遺言書があれば、その内容が相続の分け方の基礎になる。
公正証書遺言は全国どこの公証役場でも検索できる。日本公証人連合会が管理する遺言検索システムで、被相続人が公正証書遺言を作成していたか照会できる。最寄りの公証役場の窓口で申出する。手数料は無料(日本公証人連合会公式情報:koshonin.gr.jp)。
自筆証書遺言は家庭裁判所の検認が必要。遺言書の保管者は相続開始後、遅滞なく家庭裁判所に提出して検認を請求しなければなりません(民法第1004条第1項)。申立先は遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
自筆証書遺言を勝手に開封すると5万円以下の過料(民法第1005条)。発見した遺言書は開封せず、家庭裁判所に持参して検認を受けてください。ただし、法務局(自筆証書遺言書保管制度)に預けられている遺言書は検認不要です(法務局における遺言書の保管等に関する法律第11条)。開封前に必ず保管場所の種類を確認することが重要です。
検認申立書の書式は裁判所公式サイトから入手できます:申立書式(裁判所公式)。東京家庭裁判所の手続き案内:遺言書の検認(東京家裁)。
やること⑤ 相続人を確定するなるべく早く
被相続人の出生から死亡までの全戸籍(除籍謄本・改製原戸籍謄本)を収集し、法定相続人を確定する。戸籍が揃って初めて相続人の確定ができる。
本籍地が変わっている場合は複数の役所に請求が必要。結婚・転籍ごとに戸籍が分かれているため、出生から死亡まで連続してつながるよう取得する。郵送での取り寄せも可能。
戸籍を確認して初めて存在を知る相続人が出てくることがある。認知した子・前婚の子など、戸籍を取得するまで把握していなかったケースもある。全ての戸籍を確認し終えるまで相続人を確定させないこと。後で判明すると協議をやり直す事態になる。
やること⑥ 相続財産を調査するなるべく早く
預貯金・不動産・有価証券・保険・負債(借金・保証債務)をすべて洗い出す。プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も含めて把握することが重要。
不動産は「名寄帳」で確認できる。市区町村役場で請求できる名寄帳には、その自治体内の不動産が一覧表示される。預金は各金融機関への残高照会、借金は信用情報機関への問い合わせで確認できる(CIC・JICC・全銀協いずれも法定相続人からの開示請求に対応)。
負債を見落とすと単純承認後に発覚して取り返しがつかない。プラスの財産だけでなく、借金・保証債務・未払い税金等も徹底的に調査する。財産調査を怠ったまま相続を承認すると、後から多額の借金が発覚しても相続放棄できなくなる。
やること⑦ 相続放棄・限定承認を検討する3ヶ月以内
相続財産よりも負債が多い場合などは、家庭裁判所に「相続放棄」の申述を行う。自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内が期限(民法第915条第1項)。財産・負債のどちらが多いか不明な場合は「限定承認」という選択肢もある。
起算点は「死亡日」ではなく「自分が相続人と知った日」。先順位の相続人全員が放棄した場合、次順位の相続人にも相続権が移る。その人は「自分が相続人と知った日」から3ヶ月のカウントが始まるため、後から相続人になった場合も期限を意識する。
3ヶ月を過ぎると原則として相続を承認したことになる。ただし「財産の調査が終わらない」などの事情があれば家庭裁判所に期間伸長の申立てができる(民法第915条第1項ただし書)。冒頭の事例のように、期限に気づかず過ぎてしまうケースが多い。迷っていたら早めに弁護士に相談する。
相続放棄の期限が迫っている方へ
3ヶ月の期限を過ぎても、事情によっては期間伸長の申立てができます。
まず状況を弁護士に確認してください。
やること⑧ 準確定申告を行う4ヶ月以内
被相続人が亡くなった年の1月1日から死亡日までの所得について、相続人が代わりに確定申告を行う(準確定申告)。相続の開始を知った翌日から4ヶ月以内が期限(所得税法第125条第1項)。
相続人が複数いる場合は全員の連署が原則。ただし他の相続人に通知すれば、一部の相続人だけで申告することも可能。還付金が発生する場合は相続財産として扱われる。
「自分は関係ない」と思って放置する相続人がいる。申告義務を怠ると相続人全員がペナルティを受ける場合がある(相続税法第34条第1項)。被相続人に不動産収入・事業収入・副業収入があった場合は特に注意。
やること⑨ 遺産分割協議をまとめる
相続人全員で遺産の分け方を話し合い、「遺産分割協議書」を作成する。全員の実印・印鑑証明書が必要。期限はないが、次の相続税申告(10ヶ月以内)までにまとめることが多い。
不動産の相続登記は2024年4月から義務化され、3年以内が期限(不動産登記法第76条の2第1項)。相続税申告は10ヶ月以内のため、実務上は10ヶ月を目安に協議をまとめる。まとまらない場合は調停・審判という手段もある。
口頭合意は法的には成立するが、書面がなければ実務で使えない。遺産分割協議は要式行為ではなく、口頭でも法律上は成立する。しかし、不動産登記・預金払い出し・相続税申告など、すべての実務手続きに書面が必要であり、後日の争いを防ぐためにも必ず遺産分割協議書を作成し、全相続人の実印を押印する。
やること⑩ 相続税の申告・納付をする10ヶ月以内
相続財産の総額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合(相続税法第15条第1項)、被相続人の住所地を管轄する税務署に相続税申告書を提出し納付する。相続の開始を知った翌日から10ヶ月以内が期限(相続税法第27条第1項)。
「配偶者の税額軽減」など各種特例は申告しないと適用されない。配偶者控除・小規模宅地等の特例など、節税に効く特例が複数あるが、いずれも相続税申告書(税務署に提出する申告書類)を提出して初めて適用される。たとえば「配偶者は1億6,000万円まで非課税」という配偶者の税額軽減も、申告書を出さなければ使えない。特例を適用した結果として相続税がゼロになる場合でも申告書の提出が必要になるため、「自分には関係ない」と思わず税理士に早めに確認することが重要。
期限に間に合わなかった場合は延滞税・無申告加算税が課される。遺産分割が確定していなくても、法定相続分で按分して申告し、後から修正申告する方法がある。分割協議の長期化を理由に申告を先延ばしにしないこと。
手続きチェックリスト(まとめ)
相続手続きの進捗確認にご活用ください。
相続手続き チェックリスト
- ① 死亡診断書を5〜10枚受け取った
- ② 死亡届を提出し、火葬許可証を取得した(7日以内)
- ③ 年金・健康保険・世帯主の変更手続きをした(14日以内)
- ④ 遺言書(自筆・公正証書・法務局保管)の有無を確認した
- ⑤ 出生から死亡までの全戸籍を収集し、相続人を確定した
- ⑥ 預貯金・不動産・有価証券・負債をすべて調査した
- ⑦ 相続放棄・限定承認を検討した(3ヶ月以内)
- ⑧ 準確定申告を税理士と相談し、申告した(4ヶ月以内)
- ⑨ 遺産分割協議書を作成し、全相続人が実印を押印した
- ⑩ 相続税の申告・納付を完了した(10ヶ月以内)
相続手続きは期限が短く、かつ一度ミスをすると取り返しのつかない判断が多数あります。「何かおかしい」「期限が迫っている」と感じたら、早めに弁護士に相談することを強くおすすめします。
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