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コラム

二次相続対策——配偶者控除の落とし穴と税負担を抑える方法を弁護士が解説

一次相続(たとえば父が亡くなって母と子が相続するケース)では、配偶者の税額軽減によって配偶者には大きな相続税がかからないことが多く、その結果「とりあえず配偶者にすべて相続させておこう」と考えるご家庭が少なくありません。しかし、配偶者がその後亡くなったときの二次相続では、配偶者の税額軽減は使えず、相続人の数も1人減るため、子の税負担が一気に重くなる可能性があります。本記事では、一次相続と二次相続を通したトータルの税負担を抑えるために、どのような選択肢があるのかを弁護士が条文に即して解説します。
📋 この記事のポイント
  • 二次相続では配偶者の税額軽減が使えず、相続人も1人減るため、一次相続より税負担が重くなる傾向がある
  • 「一次相続で配偶者に全部相続させる」のは短期的には有利だが、二次相続まで含めるとトータルで損になるケースがある
  • 対策の選択肢は、一次相続での取得割合の調整/配偶者居住権(民法第1028条)の活用/生前贈与/生命保険/遺言書の5つが中心
  • 一次相続の遺産分割方針が二次相続の税額を左右するため、税理士と弁護士の連携が望ましい

二次相続とは——一次相続との違い

二次相続とは、一次相続が終わった後、配偶者が亡くなって発生する相続のことを指します。たとえば、父が亡くなったときに母と子が相続するのが一次相続、その後に母が亡くなって子が相続するのが二次相続です。

一次相続と二次相続には、税制上の重要な違いがあります。

項目 一次相続(父→母・子) 二次相続(母→子)
配偶者の税額軽減 使える 使えない(配偶者が被相続人)
法定相続人の人数 母・子(複数) 子のみ(母の分だけ減る)
基礎控除 3,000万円+600万円×法定相続人の数 同じ計算式だが、相続人が減るため控除額が小さくなる ⚠️
生命保険の非課税枠 500万円×法定相続人の数 同様に縮小する ⚠️

このように、二次相続では税負担を軽減する複数の制度が同時に弱まります。一次相続のときに「とりあえず母にすべて」と決める前に、二次相続まで含めたシミュレーションをすることが重要です。

⚠️ 上記の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)・生命保険非課税枠(500万円×法定相続人の数)の数値は2026年5月時点で広く解説されている数値です。具体的な金額は税理士または国税庁の最新情報でご確認ください。

配偶者の税額軽減(一次相続)の落とし穴

配偶者の税額軽減とは、被相続人の配偶者が相続によって財産を取得した場合に、一定額まで相続税がかからないとする制度です。相続税法第19条の2第1項に規定されています。

相続税法第十九条の二第一項(配偶者に対する相続税額の軽減)
「被相続人の配偶者が当該被相続人からの相続又は遺贈により財産を取得した場合には、当該配偶者については、第一号に掲げる金額から第二号に掲げる金額を控除した残額があるときは、当該残額をもつてその納付すべき相続税額とし、第一号に掲げる金額が第二号に掲げる金額以下であるときは、その納付すべき相続税額は、ないものとする。
・・・
イ 当該相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額に民法第九百条(法定相続分)の規定による当該配偶者の相続分・・・に相当する金額(当該金額が一億六千万円に満たない場合には、一億六千万円)
ロ 当該相続又は遺贈により財産を取得した配偶者に係る相続税の課税価格に相当する金額」

配偶者は、法定相続分相当額または1億6,000万円のいずれか大きいほうまで取得しても、相続税がかかりません。つまり配偶者単体で見ると、一次相続では非課税で済むケースが多いということです。

この強力な特例があるため、「一次相続では配偶者にすべて相続させて、子は二次相続でまとめて相続するのが得」と考える方が少なくありません。確かに一次相続だけを見ればその通りですが、問題は二次相続です。配偶者が亡くなったとき、その時点で配偶者が保有する財産(一次相続で取得した分+もともとの配偶者固有の財産)が課税対象となり、その全額に対して、配偶者の税額軽減なしで相続税が計算されることになります。

⚖️ 弁護士コメント/加山綾一(東京弁護士会・登録番号39453)

ご相談の中で「配偶者には相続税がかからないと聞いたので、母に全部相続させる遺言を書きたい」というお話をよくいただきます。一次相続だけを見ればその通りですが、お母様がご高齢の場合、二次相続で子に大きな税負担が生じる可能性を必ず一緒に検討します。配偶者の税額軽減は「先送り」でしかなく、二次相続では使えないという点を理解しておくことが大切です。

なお、配偶者の税額軽減と未分割申告の関係(申告期限後3年以内の分割見込書、更正の請求)については、別記事で詳しく解説しています。

▶ 関連:配偶者の税額軽減と遺産分割——未分割では使えない落とし穴と3年以内分割の重要性

二次相続で税負担が増える典型パターン

具体的に、一次相続で配偶者にどれだけ相続させるかによって、トータルの税負担がどう変わるのかを概算で見てみましょう。

前提(概算の例)

  • 父が死亡、相続人は母・子2人(合計3人)
  • 父の遺産:2億円
  • 母の固有財産:5,000万円
  • 母は一次相続後まもなく死亡(二次相続では子2人が相続)

パターンA:一次相続で母がすべて相続

  • 一次相続:母が2億円を取得→配偶者の税額軽減により相続税ゼロ
  • 二次相続:母の死亡時、母の財産は2億円+5,000万円=2億5,000万円→子2人で相続
  • 二次相続では配偶者の税額軽減なし/基礎控除も2人分のみ

パターンB:一次相続で法定相続分どおりに分割

  • 一次相続:母が1億円(法定相続分1/2)、子が各5,000万円ずつ→母の取得分は配偶者の税額軽減で非課税(1億6,000万円以下)
  • 二次相続:母の財産は1億円+5,000万円=1億5,000万円→子2人で相続
  • パターンAと比べ、二次相続の課税対象が1億円少ない
⚠️ 数値要確認

具体的な相続税額は財産構成・基礎控除・各種特例の適用関係によって変動します。本記事では「一次相続で配偶者に集中させると二次相続の課税対象が膨らむ」という方向性を示すための概算を載せています。実際の納税額の試算は、必ず税理士に依頼してください。

結論として、配偶者の税額軽減を「一次相続で目一杯使う」のは、必ずしも有利ではありません。配偶者がもともと多額の固有財産を持っている場合や、配偶者が高齢で二次相続が近いと予想される場合ほど、一次相続で配偶者の取得割合を抑える検討が必要になります。

二次相続対策の選択肢

二次相続で子の税負担を抑えるためにとり得る対策は、大きく次の5つです。

① 一次相続で配偶者の取得割合を抑える

もっとも基本的な対策です。配偶者がすでに固有財産を多く持っている場合、一次相続で配偶者にあまり多く相続させず、子に多めに相続させたほうが、トータルの税負担が軽くなることがあります。

ただし、配偶者の生活基盤(住居・生活費)を確保する必要があるため、税負担の最適化だけで決められない要素があります。配偶者の年齢・健康状態・資産状況・収入見込みを総合的に検討する必要があります。

② 配偶者居住権の活用(民法第1028条)

2020年4月1日に施行された配偶者居住権は、二次相続対策として非常に注目されている制度です。後ほどH2「配偶者居住権で二次相続の税負担を抑える仕組み」で詳しく解説します。

③ 生前贈与の活用

被相続人が元気なうちに、子や孫に生前贈与をしておくことで、相続財産を減らす対策です。ただし、相続税法の改正により、相続開始前7年以内(2024年1月1日以降の贈与から段階的に適用)の暦年贈与は相続財産に加算されるルールが拡大されています。詳しくは別記事で解説しています。

▶ 関連:生前贈与の7年加算と特別受益——相続税と遺産分割で「扱い」が異なる2つのルール

また、相続時精算課税制度・教育資金の一括贈与の非課税制度・住宅取得等資金の贈与の非課税制度など、複数の制度を組み合わせて使うことが一般的です。これらは税制改正の頻度が高い領域のため、税理士に最新の制度を確認することが必要です。⚠️ 改正確認要

④ 生命保険の活用

死亡保険金には、相続税法上の非課税枠(500万円×法定相続人の数)があります。⚠️ 数値要確認

生命保険金は受取人固有の財産として遺産分割の対象外となりますが、相続税の計算上は「みなし相続財産」として課税対象に含まれる一方、上記の非課税枠が適用されます。配偶者を受取人にすると配偶者の税額軽減で非課税となる可能性が高い反面、二次相続でその金額がそのまま課税対象になります。子を受取人にして直接子に渡す形をとれば、二次相続を経ずに子に資産を移すことが可能です。

▶ 関連:生命保険金・退職金は遺産分割の対象外——みなし相続財産の税法と民法の落差生命保険金と特別受益

⑤ 二次相続を見据えた遺言書

遺言書で「誰に何を相続させるか」を指定しておくことで、一次相続の遺産分割をスムーズに進められるだけでなく、二次相続の課税対象を意識した分配が可能になります。たとえば、収益不動産は配偶者ではなく子に直接相続させる遺言を書いておけば、二次相続時にその不動産が再度課税対象となることを避けられます。

遺言書の作成については、自筆証書遺言・公正証書遺言いずれを選ぶかで実務上の留意点が異なります。

▶ 関連:弁護士が教える遺言書の書き方と例文自筆証書遺言の書き方と法的要件

配偶者居住権で二次相続の税負担を抑える仕組み

配偶者居住権は、2020年4月1日に施行された民法上の新しい制度です(民法第1028条以下)。

民法第千二十八条第一項(配偶者居住権)
「被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。」
民法第千三十条(配偶者居住権の存続期間)
「配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする。ただし、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによる。」

配偶者居住権の基本構造

配偶者居住権は、自宅建物について「配偶者居住権」と「所有権」を分ける制度です。配偶者は終身で建物に住み続けることができ、所有権は子が取得します。

  • 配偶者:配偶者居住権(自宅に住み続ける権利)を取得
  • :自宅の所有権(配偶者居住権の負担付き)を取得

これにより、配偶者は住居を確保しつつ、自宅の評価額のうち「所有権部分」は子に直接帰属させることができます。

二次相続でのメリット

配偶者居住権は配偶者の終身の権利であるため、配偶者の死亡によって消滅します(民法第1030条)。国税庁の解説によれば、配偶者居住権は配偶者の死亡により消滅した場合、二次相続時に課税対象とならないと整理されています。⚠️ 改正確認要・国税庁の最新情報を確認

つまり、一次相続では配偶者居住権の評価額のみが配偶者の課税対象となり、配偶者の死亡時には消滅するため二次相続の課税対象から外れます。所有権は一次相続の時点ですでに子に渡っているため、二次相続では自宅の課税が発生しないという仕組みです。

従来は「自宅をすべて配偶者が相続→二次相続で自宅全額が再度課税対象」となっていたところ、配偶者居住権を活用すれば、一次相続で所有権を子に渡し、二次相続では自宅部分の課税を回避できる構造になります。

注意点

配偶者居住権の活用には次のような留意点があります。

  • 配偶者居住権を設定するには、遺産分割協議・遺贈・家庭裁判所の審判のいずれかが必要(民法第1028条第1項各号、第1029条)
  • 配偶者居住権は譲渡できない(民法第1032条第2項)
  • 登記をしないと第三者に対抗できない(民法第1031条第1項・第2項)
  • 配偶者居住権の評価額の算定方法は複雑で、税理士の関与が事実上必須
  • 配偶者居住権を設定すると所有権が制約されるため、自宅売却など将来の選択肢が狭まる

配偶者居住権は二次相続対策として有効な場面が多い一方、家族の関係や資産構成によっては別の方法のほうが適している場合もあります。設定するかどうかは、税理士・弁護士と相談しながら判断することをお勧めします。

⚖️ 弁護士コメント/加山綾一(東京弁護士会・登録番号39453)

配偶者居住権は二次相続対策として注目されていますが、設定すれば必ず得になるわけではありません。配偶者と子の関係が良好でない場合、所有権を持つ子が建物を売却したくても配偶者居住権が残っていると売却が難しくなる、といった実務上の摩擦も生じます。設定にあたっては「税負担の最適化」と「家族関係の安定」の両面から慎重に判断する必要があります。

よくある質問(FAQ)

Q:二次相続とは何ですか?

一次相続(夫から妻と子への相続)の後、配偶者が亡くなって発生する相続を二次相続といいます。二次相続では配偶者の税額軽減が使えず、相続人の数も1人減るため基礎控除も小さくなるのが特徴です。

Q:一次相続で配偶者にすべて相続させると、なぜ損になるのですか?

配偶者がすでに保有している財産と一次相続で取得した財産が合算され、二次相続のときの課税対象額が大きくなります。配偶者の税額軽減も使えないため、結果として一次・二次の合計税額が増えるケースがあります。

Q:配偶者居住権を活用すると二次相続でどう有利になりますか?

配偶者居住権(民法第1028条)は配偶者の終身で消滅する権利のため、配偶者の死亡により消滅し、二次相続時には課税対象から外れると整理されています(国税庁)。一次相続では配偶者居住権の評価額のみが配偶者に帰属し、所有権は子が取得するため、二次相続の課税財産を抑えられる場合があります。

Q:二次相続対策はいつから考えればいいですか?

一次相続が起きてからでは遺言や生前贈与などの主要な対策は使えません。被相続人となる方が元気なうちに、家族構成・財産構成・配偶者の年齢などを踏まえ、税理士・弁護士と一次・二次の合計税額のシミュレーションを行うのが望ましいです。

Q:二次相続対策に弁護士は必要ですか?

税額計算は税理士、遺言書作成・配偶者居住権の設計・相続人間の合意形成は弁護士の領域です。二次相続対策では一次相続での遺産分割方針が二次相続の税額に直結するため、両専門家の連携が望ましいです。

加山綾一(弁護士)
東京弁護士会所属(登録番号39453)。複数社の顧問、社外役員等を務める傍ら、弁護士主導の相続サポートプラットフォームを運営。相続紛争・遺産分割の実務に携わる。相続診断士。

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参考条文・資料

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