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相続税がかかる人・かからない人—いくらから?基礎控除の計算を弁護士が解説—【2026年版】

親が亡くなったとき、多くの方がまず気にされるのが「うちは相続税がかかるのだろうか」という点です。「相続税は大変だ」という話をよく耳にするので、身構えてしまう方も少なくありません。
しかし実際には、相続が起きても相続税がかかる人はごく一部です。亡くなった方(被相続人)のうち、相続税の課税対象になったのは、令和6年分(2024年に亡くなった方)で全国の約10.4%。10人のうち9人には、そもそも相続税はかかっていません。かかるかどうかの分かれ目は、基礎控除という一つの金額ラインで決まります。本記事では、相続税がいくらからかかるのか、基礎控除の計算式と具体例、そして「特例を使えば大丈夫」と思い込むと足をすくわれる落とし穴まで、2026年8月時点の国税庁情報に基づいて弁護士が整理します。
📋 この記事のポイント
  • 相続税が課税されるのは全国で約10.4%(令和6年分・国税庁)。全員にかかる税金ではない。
  • かかるかどうかの分かれ目は基礎控除。「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を正味の遺産額が超えると、相続税がかかる(相続税法第15条)。
  • 法定相続人が3人なら基礎控除は4,800万円。この額までなら原則として相続税はかからず、申告も不要。
  • ⚠️ 配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例で「税額ゼロ」になる場合でも、申告して初めて適用される。特例で税額がゼロだから申告不要、と考えるのは危険。
  • 法定相続人の数え方には注意点がある(養子の算入制限・相続放棄した人・代襲相続)。ここを誤ると基礎控除額そのものがずれる。
  • 課税割合には大きな地域差がある。全国平均10.4%に対し、地価の高い都市部は高く(東京都は報道等で約20%)、地方は全国平均を下回る地域が多い。

1. 相続税は「全員にかかる税金」ではない

まず押さえておきたいのは、相続が起きたからといって、必ず相続税がかかるわけではないということです。国税庁が公表した令和6年分の相続税の申告事績によると、亡くなった方のうち相続税の課税対象になったのは全国で10.4%でした。過去最高の水準ではありますが、それでも9割近くのご家庭では相続税はかかっていません。

「相続税は大変だ」というイメージが先行しがちですが、それは主に一定以上の資産をお持ちの方や、都市部で不動産を所有している方の話です。実際にご自宅と多少の預貯金という一般的な資産構成であれば、相続税がかからないケースは珍しくありません。

ただし、この割合には大きな地域差があります。地価の高い都市部ほど高く、報道等によれば東京都では約20%(およそ5人に1人)と全国平均の約2倍に達する一方、地方では全国平均を下回る地域が多くなっています。都市部では自宅の土地だけで基礎控除を超えてしまう家庭が多いためです。相続税がかかるかどうかは、「どこに・どんな財産(特に不動産)を持っているか」で大きく変わります。

しかも、課税割合は平成27年の基礎控除引下げ以降、8.0%から10.4%へと年々上昇しています(国税庁)。もはや「一部の富裕層だけの税金」とは言い切れなくなってきているのです。

📌 なぜ課税される人が増えているのか
大きな理由は2つあります。1つは、2015年(平成27年)1月の税制改正で基礎控除が引き下げられたこと(改正前は「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」でした)。もう1つは地価の上昇です。国税庁が令和8年分の路線価を公表しており、報道各社が同庁のデータから算出したところでは全国平均が前年より上昇したと伝えられています。基礎控除は据え置きのまま土地の評価額が上がれば、それだけ課税ラインを超える家庭が増えることになります。

2. いくらからかかる?—基礎控除の計算式

相続税がかかるかどうかの分かれ目が、基礎控除(遺産に係る基礎控除額)です。被相続人が遺した正味の遺産額(プラスの財産から借入れなどの債務・葬式費用を差し引いた額)が、この基礎控除額を超えた場合に、超えた部分に対して相続税がかかります(相続税法第15条、国税庁タックスアンサー No.4152)。基礎控除の計算式は次のとおりです。

基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
(相続税法第15条/国税庁タックスアンサー No.4152・No.4102)

法定相続人が何人かによって、基礎控除の金額が変わります。人数別に整理すると次のようになります。

法定相続人の数 基礎控除額
1人 3,600万円
2人 4,200万円
3人 4,800万円
4人 5,400万円

たとえば、父が亡くなり、相続人が母と子ども2人の合計3人だったとします。この場合の基礎控除は「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」です。父が遺した正味の遺産額が4,800万円以下であれば、原則として相続税はかからず、申告も不要です。逆に、遺産額が6,000万円だったとすると、基礎控除4,800万円を超える1,200万円の部分が、相続税の課税対象になります。

実際の税額は、この課税対象額を法定相続分でいったん按分し、超過累進の税率(最高55%)をかけて全体の税額を算出したうえで、各相続人が実際に取得した割合に応じて負担する、という2段階の計算になります(税率は国税庁タックスアンサー No.4155)。計算の詳しい手順は専門的になるため、本記事では「基礎控除を超えるかどうか」という入口の判定に絞って解説します。具体的な税額の試算は、税理士に確認されることをお勧めします。

3. 相続税がかかる人・かからない人の典型例

基礎控除の考え方を踏まえて、相続税がかかりやすいケース・かかりにくいケースを整理すると、次のようなイメージになります。あくまで目安であり、実際は財産の評価額と法定相続人の数で個別に決まります。

かかりにくい(かからないことが多い) かかりやすい(要注意)
地方に持ち家、資産は自宅と預貯金が中心で、合計が基礎控除の範囲内 都市部(特に東京23区など)に土地・自宅がある
相続人の人数が多く、基礎控除の枠が大きい 相続人が1人だけで、基礎控除の枠が小さい(3,600万円)
めぼしい財産が退職金・預貯金のみで、非課税枠に収まる 不動産に加えて、まとまった預貯金・有価証券・生命保険金がある

特に見落としがちなのが、自宅の土地の評価額生命保険金です。自宅は路線価などで評価すると想像より高くなることがあり、生命保険金も一定額を超える部分は課税対象になります。「預貯金は多くないから大丈夫」と思っていても、不動産と保険金を合わせると基礎控除を超えていた、というのは実務でもよくある話です。

弁護士 加山綾一のコメント

相続のご相談で「うちは相続税はかからないと思う」とおっしゃる方は多いのですが、実際に財産を洗い出してみると、自宅の土地の評価額が思いのほか大きく、基礎控除を超えていた、というケースは珍しくありません。まずは正味の遺産額が基礎控除を超えるかどうかを冷静に見積もることが出発点です。境界線に近い場合や、不動産が複数ある場合は、早めに税理士・弁護士に相談し、申告の要否と分割の方針を同時に考えておくと安心です。

4. ⚠️ 最大の落とし穴—特例は「申告して初めて使える」

相続税には、税負担を大きく軽くする特例がいくつも用意されています。ここで絶対に押さえておきたいのが、これらの特例の多くは「申告すること」が適用の条件になっているという点です。「特例を使えば税額はゼロになるはずだから、申告しなくてよい」という思い込みは、非常に危険です。特例を使うには、税額がゼロであっても相続税の申告書を期限内に提出する必要があります。

相続税の申告・納付の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です(国税庁タックスアンサー No.4102)。この期限内に遺産分割と申告を終える必要があり、しかも次に述べるとおり、分割がまとまっていないと特例そのものが使えない場合があります。主な特例を、深入りせず概要だけ確認しておきましょう。

(1) 配偶者の税額軽減

被相続人の配偶者が取得した財産については、1億6,000万円か、配偶者の法定相続分相当額か、いずれか多い方の金額までは相続税がかからない、という手厚い特例です(国税庁タックスアンサー No.4158)。多くのケースで配偶者の相続税がゼロになりますが、これも申告が条件で、しかも申告期限までに遺産分割が成立していることが原則です。分割がまとまらないまま期限を過ぎると、原則として使えません。この特例の要件と、未分割のときの注意点は、配偶者の税額軽減の記事で詳しく解説しています。

(2) 小規模宅地等の特例

被相続人の自宅や事業に使っていた一定の宅地について、要件を満たせば評価額を最大80%減額できる特例です(租税特別措置法第69条の4、国税庁タックスアンサー No.4124)。自宅の土地の評価が大きく下がるため、相続税の有無を左右する重要な制度です。ただし、適用できる宅地の種類・面積・要件は細かく、法改正も少なくありません。数値や要件の詳細は将来の専用記事で改めて整理する予定です。本記事では「一定の宅地を最大80%まで減額できる制度があり、これも申告が前提」という点だけ押さえておいてください。

(3) 生命保険金・死亡退職金の非課税枠

相続人が受け取る生命保険金と死亡退職金には、それぞれ500万円×法定相続人の数までの非課税枠があります(生命保険金は国税庁タックスアンサー No.4114、死亡退職金は No.4117)。この枠を超えた部分が相続税の課税対象になります。保険金・退職金がみなし相続財産として課税される仕組みは、生命保険金・退職金とみなし相続財産の記事で詳しく解説しています。

(4) 未成年者控除・障害者控除

相続人が未成年者や障害者である場合には、年齢や障害の程度に応じて税額から一定額を差し引ける控除もあります(未成年者控除は国税庁タックスアンサー No.4164、障害者控除は No.4167)。該当する場合は税額が下がる可能性があるため、こうした控除の存在も頭に入れておくとよいでしょう。

⚠️ 「未分割」だと特例が消えることに注意

配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例は、申告期限までに遺産分割が成立していることが原則の適用条件です。相続人の間で分割協議がまとまらず、未分割のまま申告期限(10か月)を迎えると、これらの特例が使えず、いったん重い税額で納付することになりかねません。分割の遅れが、そのまま税負担の増加に直結するのです。この落とし穴と救済手続き(申告期限後3年以内の分割見込書・更正の請求)については、未分割で特例が消える理由の記事で詳しく解説しています。

5. 基礎控除の要—「法定相続人の数」の数え方

基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で決まるため、法定相続人を何人と数えるかが、そのまま控除額を左右します。ここには相続税ならではの注意点がいくつかあります。誤って数えると、基礎控除額そのものがずれてしまいます。

(1) 相続放棄した人がいても、その放棄はなかったものとして数える

相続人の一人が家庭裁判所で相続放棄をしても、基礎控除の計算上の法定相続人の数は、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数で数えます(国税庁タックスアンサー No.4152)。たとえば相続人が子3人で、そのうち1人が相続放棄をしても、基礎控除の計算では法定相続人は3人のままです。放棄によって基礎控除が減ることはありません。

(2) 養子は数に入れられる人数に制限がある

養子も法定相続人ですが、基礎控除の計算に含められる養子の数には上限があります。被相続人に実子がいる場合は養子1人まで実子がいない場合は養子2人までを法定相続人の数に含めます(国税庁タックスアンサー No.4152・No.4114)。養子縁組を重ねて相続人を増やし、基礎控除や非課税枠を無制限に膨らませる、といったことができないように設けられた制限です。

(3) 代襲相続の場合

被相続人より先に子が亡くなっていた場合、その子(孫)が親に代わって相続人になります(代襲相続)。代襲相続人も法定相続人として数えます。孫が複数いれば、その人数分が法定相続人となり、基礎控除の枠もその分大きくなります。

📌 数え方を誤ると入口の判定を間違える
法定相続人の数は、そもそも誰が相続人になるのか(配偶者・子・親・兄弟姉妹の相続順位)を正確に把握することが前提です。前妻との間の子、認知した子、養子縁組など、家族関係が複雑な場合は、戸籍をたどって相続人を確定させないと、基礎控除の計算も申告の要否も正しく判断できません。相続人の範囲に不安がある場合は、この段階で専門家に相談しておくと安全です。

6. 申告が必要かどうかの判定フロー

ここまでの内容を、申告の要否を判断する流れとして整理すると、次のようになります。順番に確認してみてください。

STEP 1 法定相続人が何人かを確定する(戸籍で相続人の範囲を確認。放棄がいても放棄なかったものとして数え、養子は算入制限に注意)。
STEP 2 基礎控除額を計算する(3,000万円+600万円×法定相続人の数)。
STEP 3 正味の遺産額を見積もる(不動産・預貯金・有価証券・生命保険金や退職金の非課税枠を超える部分などを合計し、借入れ・葬式費用を差し引く)。
STEP 4 正味の遺産額が基礎控除以下 → 原則として申告不要。基礎控除を超える → 相続税の申告・納付が必要(10か月以内)。
⚠️ 「特例で税額ゼロ」でも申告が必要な場合がある

STEP 4で基礎控除を超えていても、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使えば納める税額がゼロになることがあります。しかし、これらの特例は申告して初めて適用されるため、税額がゼロでも申告書の提出が必要です。「特例で税額ゼロだから申告しない」と放置すると、期限後に特例が受けられなくなり、思わぬ税負担が生じるおそれがあります。基礎控除を超えるかどうか微妙なケースや、特例で税額ゼロになる見込みのケースこそ、税理士に確認することをお勧めします。

7. 弁護士の視点—「分割のもめ方」が税額に直結する

相続税は税理士の領域だと思われがちですが、実は遺産分割のもめ方が、そのまま相続税の負担に跳ね返る場面が多くあります。ここが、弁護士が相続税の話に関わる大きな理由です。

すでに触れたとおり、配偶者の税額軽減も小規模宅地等の特例も、申告期限までに遺産分割が成立していることが原則の条件です。相続人の間で「誰がどの財産を取るか」でもめて分割が長引くと、これらの特例が使えず、本来払わなくてよかった税金を、いったん納めることになりかねません。逆に、誰が自宅を相続するか、配偶者がどれだけ取得するかといった分割の組み方次第で、使える特例と税額は大きく変わります。分割の交渉と税務の設計は、本来セットで考えるべきものです。

さらに、今回の相続だけでなく、次に配偶者が亡くなったときの相続(二次相続)まで見据えて分割を設計しないと、トータルの税負担がかえって重くなることもあります。二次相続まで見据えた考え方は、二次相続対策の記事で解説しています。また、生前の贈与も相続税と無関係ではなく、一定期間内の贈与は相続財産に加算されます(詳しくは生前贈与の7年加算と特別受益の記事をご覧ください)。

弁護士 加山綾一のコメント

相続税の申告そのものは税理士の仕事ですが、税額を決める前提となる「誰が何を取得するか」は、遺産分割の問題です。分割がもめれば特例が使えなくなり、税負担が増える——この構造は、法律と税務が直結している典型例です。私は、相続人間で対立がありそうな案件では、税理士と早い段階から連携し、分割の交渉方針と申告のスケジュールを一緒に組み立てるようにしています。相続税がかかりそうなご家庭ほど、弁護士と税理士の双方に早めに相談されることが、結果的にいちばん有利な解決につながります。

よくある質問

正味の遺産額が基礎控除額を超えるとかかります。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します(相続税法第15条)。たとえば法定相続人が3人なら基礎控除は4,800万円で、正味の遺産額がこれ以下なら原則として相続税はかからず、申告も不要です。相続人の人数によって金額が変わる点に注意してください。
国税庁の令和6年分の相続税の申告事績によると、亡くなった方のうち相続税の課税対象になったのは全国で10.4%でした。全体としては約10人に1人ですが、地域差が大きく、報道等によれば東京都では約20%(およそ5人に1人)と全国平均の約2倍に達する一方、地方では全国平均を下回る地域が多くなっています。
減りません。基礎控除の計算上の法定相続人の数は、相続放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数で数えます(国税庁タックスアンサー No.4152)。たとえば相続人が子3人で、そのうち1人が相続放棄をしても、基礎控除の計算では法定相続人は3人のままです。放棄によって基礎控除が小さくなることはありません。
配偶者の税額軽減により、配偶者が取得した財産は1億6,000万円か法定相続分相当額のいずれか多い方までは相続税がかからず、多くの場合ゼロになります(国税庁タックスアンサー No.4158)。ただし、この特例は申告して初めて適用されるものです。税額がゼロになる場合でも、相続税の申告書を期限内に提出する必要があります。さらに、申告期限までに遺産分割が成立していることが原則の条件で、未分割のままだと使えません。詳しくは配偶者の税額軽減の記事をご覧ください。
申告書の作成は税理士の仕事ですが、税額を左右する「誰が何を取得するか」は遺産分割の問題であり、弁護士の領域です。配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、申告期限までに分割が成立していることが原則の条件のため、分割がもめて長引くと特例が使えず、税負担が重くなります。相続人間で対立がありそうな場合は、税理士と弁護士の双方に早めに相談し、分割の方針と申告のスケジュールを一緒に組み立てることをお勧めします。
加山綾一 弁護士(東京弁護士会)
加山綾一(弁護士)
東京弁護士会所属(登録番号39453)。複数社の顧問、社外役員等を務める傍ら、弁護士主導の相続サポートプラットフォームを運営。相続紛争・遺産分割の実務に携わる。相続診断士。

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