相続放棄したら次の相続人は誰か
—兄弟・甥姪・代襲相続の相続順位の繰り上がりを弁護士が解説
- 相続放棄すると「初めから相続人でなかった」ものとみなされ、放棄者の子に代襲相続は生じない(民法939条)
- 第1順位(子)が全員放棄すると、第2順位(父母・祖父母)、さらに第3順位(兄弟姉妹)へと順番に相続が移る
- 兄弟姉妹が放棄した場合、甥・姪には代襲相続は生じない——死亡の場合とは扱いが異なる
- 全員が放棄すると相続財産は「相続財産法人」となり、最終的に国庫に帰属する(民法951条以下)
- 法律上の連絡義務はないが、次の順位の親族への事前通知が実務上は強く推奨される
相続放棄すると「初めから相続人でなかった」ことになる——相続順位の繰り上がりの仕組み
相続放棄の核心的な法的効果は、民法939条に定められています。放棄をした者は、その相続に関して「初めから相続人とならなかったものとみなす」とされています。これは単に「相続をしない」というだけでなく、相続人の地位そのものが遡及的に消滅するという強い効果です。
この「初めから相続人でなかった」という擬制の結果、最も重要な実務的帰結が生じます。それは代襲相続が生じないという点です。代襲相続は相続人が「死亡」等によって相続できない場合に子が代わりに相続する制度ですが、「放棄」による場合には適用されません(後述)。
もう一つの帰結は相続順位の繰り上がりです。放棄によってその相続順位の方が全員いなくなると、次の順位の方に相続が移ります。これが「相続放棄したら次の相続人は誰か」という問いへの答えにつながります。
法定相続人の順位と配偶者の扱い(民法887条・889条・890条)
まず前提として、法定相続人の順位と配偶者の扱いを確認しておきます。民法は相続人の順位を次のように定めています。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹」
これらの条文から、法定相続人の順位は次のとおりとなります。
配偶者は常に相続人となるため、相続放棄の影響を受けません。たとえば子が全員放棄しても、配偶者はそのまま相続人であり続けます。第2順位・第3順位が相続人になる場合は、配偶者と並んで相続することになります。
相続放棄と代襲相続の関係——「放棄した人の子」は相続人にならない(民法939条)
代襲相続(だいしゅうそうぞく)とは、相続人が相続を受けられない場合に、その子(孫・ひ孫)が代わりに相続する制度です(民法887条2項)。しかし、代襲相続が発生するのは相続人が「死亡」「欠格」「廃除」の場合に限られます。
相続放棄は、代襲相続の原因になりません。
この点は実務上、非常に重要です。たとえば、被相続人の子Aが相続放棄をした場合、Aの子(被相続人の孫)はAの代わりに相続人となることはありません。Aは民法939条により「初めから相続人でなかった」ものとみなされるため、代わりに相続できる子も存在しなかった扱いになるからです。
887条2項が代襲原因として列挙しているのは「死亡」「欠格」「廃除」のみです。「放棄」は含まれていません。この点が、放棄した場合に代襲相続が生じない根拠です。
子Aが被相続人より先に死亡していた場合→ Aの子(孫)が代襲相続人となる(887条2項)。
子Aが相続開始後に放棄した場合→ Aの子(孫)は代襲相続人とはならない(939条・887条2項の解釈)。
この違いは非常に重要で、実際の相談でも混同されるケースが見られます。
第1順位(子)が全員放棄すると——第2順位(父母・祖父母)へ移る
被相続人の子が全員相続放棄をすると、第1順位の相続人がいない状態になります(放棄した者は「初めから相続人でなかった」ため)。この場合、民法889条1項1号の規定により、第2順位の直系尊属(父母・祖父母等)が相続人となります。
直系尊属が複数いる場合は、親等の近い者が優先します。被相続人の父母が生存していれば父母が相続人となり、父母がすでに死亡している場合は祖父母が相続人となります。
なお、父母の一方だけが生存している場合は、その一方のみが相続人となります。父方の祖父母と母方の祖父母が同一親等の場合は、双方が相続人となります。
第1順位が全員放棄した場合、第2順位の方(被相続人の父母等)は自動的に相続人の立場になります。第2順位の方が相続放棄を希望する場合は、改めて自らが家庭裁判所に申述する必要があります。
第2順位も全員放棄すると——第3順位(兄弟姉妹)へ移る
直系尊属(第2順位)が全員相続放棄をすると、次に第3順位の兄弟姉妹が相続人となります(民法889条1項2号)。
兄弟姉妹が相続する場合の相続分については、被相続人と父母双方を同じくする兄弟姉妹は通常の相続分となりますが、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹(いわゆる半血兄弟姉妹)の相続分は、その2分の1となります(民法900条4号ただし書)。
兄弟姉妹が複数いる場合は、各自が均等に相続します(兄弟姉妹間での同順位の扱い)。
兄弟姉妹が放棄した場合の代襲相続——甥・姪は相続人になるか
兄弟姉妹(第3順位)が関わる場面での代襲相続については、死亡と放棄の違いが特に重要になります。
兄弟姉妹が死亡していた場合(代襲相続が生じる)
被相続人より先に兄弟姉妹が死亡していた場合、その子(被相続人の甥・姪)が代襲相続人となります。これは民法889条2項が、887条2項の代襲相続規定を兄弟姉妹の場合にも準用しているためです。
ただし、兄弟姉妹の代襲相続には重要な制限があります。887条3項(再代襲)は889条2項では準用されていません。つまり、甥・姪までは代襲相続が認められますが、甥・姪の子(被相続人の大甥・大姪にあたる者)への再代襲は認められません。これは子の場合(再代襲あり)と異なる重要な点です。
兄弟姉妹が放棄した場合(代襲相続は生じない)
兄弟姉妹が相続放棄をした場合、その兄弟姉妹の子(甥・姪)は代襲相続人とはなりません。放棄した兄弟姉妹は「初めから相続人でなかった」(民法939条)ものとみなされるため、代わりに相続できる甥・姪も存在しなかった扱いになるからです。
兄弟姉妹Bが被相続人より先に死亡していた場合→ Bの子(甥・姪)が代襲相続人となる(889条2項・887条2項準用)。
兄弟姉妹Bが相続開始後に放棄した場合→ Bの子(甥・姪)は代襲相続人とはならない(939条)。
全員が放棄した場合——相続財産はどこへ行くか(相続財産清算人)
配偶者を含むすべての相続人が相続放棄をすると、相続する人がいなくなります。この場合、民法951条により相続財産は「相続財産法人」(相続財産そのものを一種の法人として扱う)となります。
その後の流れは次のとおりです。
利害関係人(債権者・受遺者等)または検察官の請求により、家庭裁判所が相続財産清算人を選任します(民法952条)。なお、2023年の民法改正(令和3年法律第24号)により、従来の「相続財産管理人」は「相続財産清算人」に名称が変更されました。
相続財産清算人の選任と相続人捜索の公告が行われ、債権者や受遺者は期限内に申出を行います(民法957条等)。
各種の清算手続きが完了した後、残余財産は国庫に帰属します(民法959条)。特別縁故者(被相続人と生計を同じくしていた者等)がいる場合は、国庫帰属の前に財産分与を求めることができます(民法958条の2)。
相続財産清算人の選任申立ができるのは「利害関係人」、つまり債権者や受遺者等です。相続放棄した元相続人は利害関係人にはなりませんが、申立費用の予納(数十万円規模になることも)が問題になることがあります。借金を残して亡くなった方の相続で全員が放棄する場合は、事前に弁護士に相談することをお勧めします。
次の相続人への連絡義務はあるか——通知の実務的な扱い
「自分が相続放棄することを、次の順位の親族(父母・兄弟等)に知らせる義務はあるのか」——こうした疑問を持つ方は少なくありません。
結論から言えば、法律上の連絡義務は定められていません。相続放棄は家庭裁判所への申述によって単独で行える手続きであり、他の相続人や次の順位の方への通知は法的に要求されていません。通知をしなかったからといって違法になるわけでもなく、放棄の効力に影響が生じることもありません。
しかし、実務的な観点から見ると、事前の通知と説明は非常に重要です。次の順位の方が突然「自分が相続人になった」という事実を知ることになるケースでは、準備が整わないまま熟慮期間が進んでしまうリスクがあります。
経緯
父が多額の借金を残して死亡。長男・二男がともに家庭裁判所に申述し、相続放棄が受理された。父の父母(被相続人の父方祖父母=第2順位の相続人)には事前に何も連絡せず。数ヶ月後、金融機関から祖父母に対して督促状が届いた。
問題となった点
祖父母は「自分たちが相続人になっているとは知らなかった」として、相続放棄を希望した。熟慮期間(3ヶ月)の起算点は「自己のために相続の開始があったことを知った時」(民法915条)であるため、督促状の受領等により「孫(長男・二男)が放棄して自分が相続人となったことを知った時」から起算される。
結果と実務的示唆
督促状到着後に弁護士に相談し、熟慮期間内に無事相続放棄が受理された。しかし、突然の督促状は精神的負担が大きく、場合によっては3ヶ月という期間の判断が難しい局面もある。第1順位が放棄する場合は、事前に次の順位の方に連絡し、対応を促すことが実務上は重要とされる。
弁護士に相談すべきケース
相続放棄と相続順位の繰り上がりに関して、特に弁護士への相談を検討すべき状況をまとめます。
- 自分が放棄することで、父母・祖父母・兄弟姉妹に相続が移る可能性がある場合(連絡や調整が必要)
- 借金の規模や債権者の数が多く、全員放棄の場合に相続財産清算人の選任が現実問題になっている場合
- 兄弟姉妹の一部が放棄し、残った兄弟姉妹や甥・姪との間で相続分が変動する場合
- すでに単純承認とみなされる行為(財産の処分等)をしてしまった可能性がある場合(民法921条)
- 先順位の相続人が放棄したことを最近知り、自分の熟慮期間の起算点がいつかわからない場合
- 被相続人に特別縁故者がいて、国庫帰属の前に財産分与の申立てを検討している場合
相続放棄は一度受理されると原則として取り消すことができません(民法919条は取消事由を極めて限定しています)。「放棄してよかったのか」と後悔しないためにも、放棄を決断する前に弁護士に相談されることをお勧めします。
引用条文・参考文献
- 谷口知平・久貴忠彦編『新版注釈民法(27)相続(2)補訂版』(有斐閣、2013年)第939条
- 寺本吉男著『Q&A 単純承認・限定承認・相続放棄の法律実務 判断ポイントと事例・書式』(日本法令、2024年)
- 最高裁判所第一小法廷 昭和59年4月27日判決(民集38巻6号698頁)——熟慮期間の起算点
- 民法第887条(子及びその代襲者等の相続権)
- 民法第889条(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
- 民法第890条(配偶者の相続権)
- 民法第915条(相続の承認又は放棄をすべき期間)
- 民法第939条(相続の放棄の効力)
- 民法第951条(相続財産法人の成立)
- 民法第952条(相続財産の清算人の選任)
相続放棄は自分だけの問題ではありません。放棄することで次の順位の親族(父母・兄弟等)に相続が移ることを必ず念頭に置いてください。法律上の通知義務はありませんが、次の順位の方が何も知らないまま放置されると、突然届いた督促状に驚き、熟慮期間がどんどん経過してしまうという事態も起こりえます。
事前の連絡と丁寧な説明が、家族間のトラブルを防ぐ最も効果的な方法です。「放棄する前に父母や兄弟に相談する」という一手間が、後々の紛争リスクを大幅に下げます。相続放棄を考えている段階で、弁護士に相談されることをお勧めします。